2013年05月06日

徒歩パトロールPart2

まずは、第1小隊の援護のもと、第4小隊が村へ入って行った。そして、第1小隊が出発するときが来た。まずは戦闘班が入っていく。

村の手前に大きな遺跡のような大きなコンパウンド(現地の建物をこう呼ぶ)があった。上から見れば四角形に見えるように土塀が建てられており、一辺が100mくらいありそうだ。部分的に崩れている廃墟だが、エジプト文明の遺跡のようで美しい。

徒歩パトロールPart2←そのコンパウンド

第4小隊はこのコンパウンドからやや遠くの道をたどって村に入ったが、我々第1小隊はこのコンパウンドを調べることにした。3つの戦闘班のうち、1班が塀が崩れたところから中へ入り、別の2つの班がそれぞれ左右の塀の外側に沿って歩いた。

彼らが異常を発見することなくコンパウンドを通り過ぎたので、我々指揮班はコンパウンドの中へ入った。中は雑草が少し生えた広場になっており、はるか昔に見放された廃墟のようだった。戦闘班が中をチェックしたので、ほぼ確実に敵は潜んでいないと思われるが、我々は慎重に広場の中央を進んでいく。我々が入った入口の真向かいに出口はあった。

そこも塀が崩れたところだ。かつてはここに扉があったが、古くなって扉が外れ、隙間ができたため、強度が低くなり、この部分が崩れたのだろう。遺跡と呼ぶより廃墟と呼ぶほうが正しいが、塀の色がエジプトのピラミッドのような色をしているので、映画「スターゲイト」の米兵になった気分がした。

すると突然、ボーボニス曹長がつぶやいた。
「なんだこれは?」

曹長のほうを向くと、曹長と通信兵が足元の地面を見つめている。もっとよく見えるように曹長がしゃがんだ。そこから5mほど離れた私の位置からは、地面から5㎝ほど伸びた白い細いコードが見える。電気コードっぽく見える。IEDでなければいいが。

曹長が静かに言った。
「全員、離れろ。電気コードの切れ端が地面から出ている。念のために工兵を呼ぶ。」
我々は歩いて遠ざかる。曹長は無線で中隊長に報告するとともに、工兵を要請した。

我々はコンパウンドの内壁に寄り掛かり座る。

徒歩パトロールPart2←コンパウンド内のすみに座るオアロ上級軍曹とバラシュ一等兵

白いコードからは50mくらい離れている。少しすると工兵小隊の2名がコンパウンドに入ってきた。2人とも40歳くらいに見えるので、ベテラン工兵と思われる。実際の爆発物処理経験もあるかもしれない。

曹長は彼らに歩み寄り、コードの位置に案内したあと、我々の座っているところに戻ってきた。工兵2人の手元は見えなかったが、スコップで地面を少し掘ったりするのを眺めていると、1人が我々のほうへ歩いてきた。

「爆薬が見つかった。爆薬の量が多いから、もっと離れないとダメだ。このコンパウンドから出たほうがいい。」

工兵はニヤニヤした顔でそう言った。こんなときにニヤつくのは異常に思われるかもしれないが、私はなんとなく理解できる。自分の本領を発揮できる喜びかもしれないし、実はストレスを緩和するための自然な心理的反応かもしれない。

ボーボニス曹長が工兵に後の処理を頼むと、我々はコンパウンドの外へと歩いていった。曹長が言う。
「地面からヒモが出ていて、よく見たら電気コードだったから変だと思ったんだ、ハッハッハ。」
危機を回避すると人間は笑ってしまうものだ。

後になって聞いたのだが、そこには25㎏もの爆薬があり、携帯電話の遠隔操作で起爆する仕組みのIEDだった。もし爆発していれば、我々はあの世行きだったはずだが、なぜ爆破されなかったのか?工兵がいくつかの仮説を話してくれた。

最初の仮説としては、爆破の失敗が挙げられる。IEDの製造に不備があったり、携帯電話の遠隔操作に不備があったのかもしれない。つまり、不良品だったという説だ。

次の仮説は、起爆装置である携帯電話を持つ敵が、爆破するタイミングが来るまえに逃げたというもの。コンパウンドに近づくことなく、まず第4小隊が村に入って行ったので、村からコンパウンドを見張っていた敵は起爆することなく逃げるしかなかった。

村に入る前にコンパウンドに入っていたら、危なかったかもしれない。

次の仮説はIEDの放棄だ。敵はこの日より前の別の日に、待ち伏せのためにIEDを仕掛けたが、全然フランス軍がコンパウンドに入らないので諦めてしまった。

他にも仮説はあるだろうが、私が聞いたのは以上だ。とにかく自分たちが無事でよかった。このIEDは回収され、FOBトラ近くの荒野で爆破処理されたらしい。

コンパウンドを出た我々は村を目指した。

徒歩パトロールPart2←コンパウンドを出たところ

徒歩パトロールPart2←地雷やIEDを探す工兵(今回の記事とは別の日)
徒歩パトロールPart2←別の任務で回収された爆発物の爆破処理
徒歩パトロールPart2←その爆発物

つづく
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Posted by 野田力  at 09:56 │Comments(4)アフガニスタン

この記事へのコメント
少しゾッとしました。
生きるも死ぬのも運次第ですね(^_^;)
自衛隊だと経験出来ないので正直少し経験したいなんて思ってしまいました。
ちなみに25キロの爆薬だとどれくらいの範囲まで死人がでるんですか?
Posted by たつ at 2013年05月06日 15:27
たつさん
ケガしたり、死んだりするなら、このような経験はしないほうがよいでしょう。
詳しい威力については、私にはわかりません。面目ない・・・。
Posted by 野田力野田力 at 2013年05月08日 20:48
面白い・・・というよりも手に汗握りますね。

電線をもろに外に出していた・・・ということは、やはりタリバンがどこからか野田さんの部隊の動きを監視していてスイッチを押したけど、電源不足かコンバーターか何かが上手く作動しなかった・・・ということではないでしょうか?

数で優勢なフランス軍部隊が村に来て、びびったタリバンが退却したならば、貧乏なタリバンならケーブルを地中に完全に隠して次回のチャンスを狙うと思います。

ケーブルをもろに目立つところに出すのは、やはりみんながそこに集まるのをことを期待して被害を最大化させることが目的だと思います。

もしタリバンがとんずらしたのだとしたら、資金的にかなり余裕がある・・・というエビデンスでしょうね。

25キロの弾薬なら半径20メートル以内にいたら無事ではないですね。

クワバラ、クワバラ。
Posted by 馬嶋慶 at 2013年05月22日 17:11
馬嶋さん
現場にいたときは、不思議なことに恐怖感とか緊張感とか感じませんでした。今思えば、若干、緊張しますね。
Posted by 野田力野田力 at 2013年05月22日 23:29
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