2013年03月11日
新COP建設Part5
夜中になり、交替で見張りをし、3日目の朝がきた。3日目は特に何もなく、4日目になった。第3中隊と第2中隊の援護のもと建設が始まった新COP(前哨砦)に第3中隊のVABすべてが一時的に集結することになった。
我が中隊のVABは列を成して、COPが建設された地点をめざし、荒野を進んだ。遠くを眺めると、防御のために土が盛られているのが見えた。上空から見て正方形状に盛り土の防壁ができているとわかる。一辺が100mくらいだろう。一角に隙間があいており、そこが出入り口だ。
敵の攻撃の脅威があるなか、たった数日間で、よくこんな立派な陣地を作ったものだ。工兵隊や輸送隊の兵士たちに尊敬の念を抱いた。そして、工兵、輸送、戦闘などの異種部隊の協力の成果に感動した。
COPの前に列を成して駐車した。私はVABの屋根に立ち、COPを眺めた。COPのなかにはブルドーザーやショベルカー、トラックなどが駐車してある。防壁の土は2m~3mほど盛られ、簡易的かつ一時的な防御を担っている。やがてはバスチョンウォールを設置し、COPを拡張する。
新COPのそばで数時間の休息をとり、昼過ぎには再び村と向かい合う元の配置に戻った。何も起きないまま、4日目の朝が来て、平和なまま、4日目の夜になった。
この夜、疲れが溜まっていて、車内で狭い思いをして眠りたくなかった。私とミッサニ伍長はADU(中隊の最先任下士官)の許可を得て、VABの真横の地面に担架を置き、そのうえで眠ることにした。
担架の上にスリーピングマットを敷き、脱いだアーマーを枕にする。上着は脱ぎダウンジャケットを着て、横になった。ブーツは靴ヒモを少しゆるめるだけで脱がない。そして、暖かい寝袋のサイドジッパーを完全に開け、布団のように寝袋を体にかけた。ブーツのまま、両足を寝袋の中に入れる。泥などが付着していないから問題ない。ヘルメットは車内だが、FAMASは“枕元”にある。今夜はたくさん疲れが落とせそうだ。
看護官のオアロ上級軍曹はVABの後部内側の担架で眠り、プルキエ少佐は狭い助手席で眠る。少佐が最も階級が高いので、一番安全で一番快適な車内の担架で眠る優先権があるのだが、少佐は助手席を希望した。
23時00分、私はアーマーを装着し、FAMASを手に、夜中の見張りに就いた。少し眠いが、1時間交替なのでそんなに負担ではない。守るものはADU(中隊の最先任下士官)のVAB、車両整備班のVAB、そして医療班のVABの3台だ。その3台が成している円陣の外側をグルグル周りながら、敵が近づいてこないかなどを警戒する。周るべき円は直径30~40mくらいなので大したことない。
23時15分頃、1kmほど離れた村の中から、“バババババン・・・バババババン・・・バババババン・・・”と、3回にわかれた短い連射音が聞こえてきた。眠気は吹き飛び、私は自分のVABの運転席の扉を開け、助手席に座って眠るプルキエ少佐を起こした。
「少佐殿、村で発砲です。」
その後、ADUと車両整備班の両VABへと走り、運転席側の扉を開け、運転手らを起こして発砲のことを知らせた。各車両の誰か1人を起こせば、そいつが他の乗員を起こすだろう。
私は自分のVABに戻り、運転席側の扉を開けた。少佐が言った。
「ノダ、乗れ。中隊長が『全員、VABに入れ』と無線で言ったところだ。」
「はい、少佐殿。」
“バババババン・・・バババババン・・・。”また発砲が始まった。
「あっ、見ろ。」
少佐が車内から前方斜め上空を指さした。私がその方向に首を向けると、淡い赤色に光る1発の曳光弾が40~50m上空を走り、我々の真上に到達する直前に消えた。線香花火のような、はかない美しさを感じた。
次の瞬間、我々のVABから左へ5m、つまり私の立ち位置から5mくらいの地面で、“プチューン”と音がした。敵の放った弾丸がすぐ近くに着弾したのだ。私は急いで運転席に飛びこみ、いつでも発車できるようにエンジンをかけた。命のほうが惜しいので、担架や寝袋はそのままだ。発車しても、後で回収するチャンスはある。
1時間半くらい車内に留まった。中隊長が「必要に応じ、VABから出てもよい」と無線で伝えた。私とミッサニ伍長はVABを出て、再び担架で眠った。確かに少しは危険だが、被弾する可能性は低いいっぽう、疲れを落とす重要性は高い。それらを天秤にかけた結果、少し危険を冒し、外で眠ることを選んだ。そのまま朝まで発砲はなく、私はよく眠れた。
その後は任務終了まで何も起きなかった。最終日である6日目も無事、夜中を迎え、未明に離脱し、FOBトラに帰還した。携帯糧食を食べつづけた6日間のあとに、FOBトラの食堂で食べたスクランブルエッグとカリカリに焼いたベーコンは格別だった。
ミランミサイルの落下など、いくつかハプニングはあったが、目的であった新COP建設は達成された。それが一番大切なことだと思う。タガブ谷から敵を追い出すという目標に向けての大きな一歩となった。敵は新COPを村から眺め、あせっているのではないだろうか。
新COPの名は「COP46」に決まった。
つづく
我が中隊のVABは列を成して、COPが建設された地点をめざし、荒野を進んだ。遠くを眺めると、防御のために土が盛られているのが見えた。上空から見て正方形状に盛り土の防壁ができているとわかる。一辺が100mくらいだろう。一角に隙間があいており、そこが出入り口だ。
敵の攻撃の脅威があるなか、たった数日間で、よくこんな立派な陣地を作ったものだ。工兵隊や輸送隊の兵士たちに尊敬の念を抱いた。そして、工兵、輸送、戦闘などの異種部隊の協力の成果に感動した。
COPの前に列を成して駐車した。私はVABの屋根に立ち、COPを眺めた。COPのなかにはブルドーザーやショベルカー、トラックなどが駐車してある。防壁の土は2m~3mほど盛られ、簡易的かつ一時的な防御を担っている。やがてはバスチョンウォールを設置し、COPを拡張する。
新COPのそばで数時間の休息をとり、昼過ぎには再び村と向かい合う元の配置に戻った。何も起きないまま、4日目の朝が来て、平和なまま、4日目の夜になった。
この夜、疲れが溜まっていて、車内で狭い思いをして眠りたくなかった。私とミッサニ伍長はADU(中隊の最先任下士官)の許可を得て、VABの真横の地面に担架を置き、そのうえで眠ることにした。
担架の上にスリーピングマットを敷き、脱いだアーマーを枕にする。上着は脱ぎダウンジャケットを着て、横になった。ブーツは靴ヒモを少しゆるめるだけで脱がない。そして、暖かい寝袋のサイドジッパーを完全に開け、布団のように寝袋を体にかけた。ブーツのまま、両足を寝袋の中に入れる。泥などが付着していないから問題ない。ヘルメットは車内だが、FAMASは“枕元”にある。今夜はたくさん疲れが落とせそうだ。
看護官のオアロ上級軍曹はVABの後部内側の担架で眠り、プルキエ少佐は狭い助手席で眠る。少佐が最も階級が高いので、一番安全で一番快適な車内の担架で眠る優先権があるのだが、少佐は助手席を希望した。
23時00分、私はアーマーを装着し、FAMASを手に、夜中の見張りに就いた。少し眠いが、1時間交替なのでそんなに負担ではない。守るものはADU(中隊の最先任下士官)のVAB、車両整備班のVAB、そして医療班のVABの3台だ。その3台が成している円陣の外側をグルグル周りながら、敵が近づいてこないかなどを警戒する。周るべき円は直径30~40mくらいなので大したことない。
23時15分頃、1kmほど離れた村の中から、“バババババン・・・バババババン・・・バババババン・・・”と、3回にわかれた短い連射音が聞こえてきた。眠気は吹き飛び、私は自分のVABの運転席の扉を開け、助手席に座って眠るプルキエ少佐を起こした。
「少佐殿、村で発砲です。」
その後、ADUと車両整備班の両VABへと走り、運転席側の扉を開け、運転手らを起こして発砲のことを知らせた。各車両の誰か1人を起こせば、そいつが他の乗員を起こすだろう。
私は自分のVABに戻り、運転席側の扉を開けた。少佐が言った。
「ノダ、乗れ。中隊長が『全員、VABに入れ』と無線で言ったところだ。」
「はい、少佐殿。」
“バババババン・・・バババババン・・・。”また発砲が始まった。
「あっ、見ろ。」
少佐が車内から前方斜め上空を指さした。私がその方向に首を向けると、淡い赤色に光る1発の曳光弾が40~50m上空を走り、我々の真上に到達する直前に消えた。線香花火のような、はかない美しさを感じた。
次の瞬間、我々のVABから左へ5m、つまり私の立ち位置から5mくらいの地面で、“プチューン”と音がした。敵の放った弾丸がすぐ近くに着弾したのだ。私は急いで運転席に飛びこみ、いつでも発車できるようにエンジンをかけた。命のほうが惜しいので、担架や寝袋はそのままだ。発車しても、後で回収するチャンスはある。
1時間半くらい車内に留まった。中隊長が「必要に応じ、VABから出てもよい」と無線で伝えた。私とミッサニ伍長はVABを出て、再び担架で眠った。確かに少しは危険だが、被弾する可能性は低いいっぽう、疲れを落とす重要性は高い。それらを天秤にかけた結果、少し危険を冒し、外で眠ることを選んだ。そのまま朝まで発砲はなく、私はよく眠れた。
その後は任務終了まで何も起きなかった。最終日である6日目も無事、夜中を迎え、未明に離脱し、FOBトラに帰還した。携帯糧食を食べつづけた6日間のあとに、FOBトラの食堂で食べたスクランブルエッグとカリカリに焼いたベーコンは格別だった。
ミランミサイルの落下など、いくつかハプニングはあったが、目的であった新COP建設は達成された。それが一番大切なことだと思う。タガブ谷から敵を追い出すという目標に向けての大きな一歩となった。敵は新COPを村から眺め、あせっているのではないだろうか。
新COPの名は「COP46」に決まった。
つづく
2013年03月04日
新COP建設Part4
翌朝、珍しく雨が降りだした。灼熱の太陽は隠れ、気温が下がっているが、まだまだ暑い。雨あしは強くはないが、VABから外に出ればすぐに全身ずぶ濡れになるだろう。
助手席に座る軍医のプルキエ少佐の太ももあたりに水滴がしたたりだした。雨もりだ。上部のハッチは閉めてあるが、車両が古いので隙間ができているのだ。
プルキエ少佐はできるだけ股を開いて水滴を避けたが、座席のキャンバス生地が濡れ、雨水がしみはじめた。やがては尻が濡れる。少佐はモゾモゾし、よい対策がないようだったので、私は「どうぞ」と、小さく畳んであるポンチョを運転席の隅から取り出し手わたした。
少佐はポンチョを広げ、両脚全体にかけた。水滴はポンチョを伝って、助手席の床に流れていくようになった。床には排水口があるので、水が溜まることはない。
「これはとても効果的だ。ありがとう。」
少佐は嬉しそうに言った。
やがて無線から中隊長の声が流れた。
「レッドの隊員1名が山を徒歩で移動中に転落し、脚を骨折。ヘリで搬出される。」
“レッド”とは第2中隊のコールサインだ。
我々はVABの中にいるので雨の影響は受けないが、山にいる第2中隊の一部にとっては、濡れて滑りやすくなった岩や石が大きな障害となる。少し滑っただけでも、アーマーや武器などの重装備により、バランスを取りもどすことが困難だ。
第2中隊にも専属の医療班がいるので、我々が急行する必要はない。骨折した兵士はフランスに戻ることになるだろう。アフガニスタンに着いてから2ヶ月も経っていないのに、気の毒だ。
昨日からずっと、第3中隊のVAB10台が横1列となり、村に面している。COP建設現場へ敵が向かうことを防ぐためだ。村の端からの距離は1kmもなく、敵が攻撃してきてもおかしくない距離だ。
12時が過ぎた。村は静かだ。もしかしたら、雨に濡れるのが嫌で敵は屋内で休んでいるのかもしれない。そうだとしたら、のどかな連中だが、そうとも限らない。油断はできない。
午後に入ると雨がやんで曇り空となった。それと同時に私は大きいほうの便意を催しはじめた。小便なら、運転席から出てすぐ、ズボンのジッパーを下げ、“チューブ”を出して、タイヤのあたりに放尿すればいいだけだ。
大便となると、ズボンも下着もおろし、しゃがまなければならない。しかも、私の場合、アーマーのサイズがやや大きくて、しゃがむにはアーマーを脱がざるをえない。あまりにも無防備な態勢となる。
それ以上に嫌なのは、まわりの同僚に大便の最中を見られることだ。写真を撮られ、後でひやかしの対象とされることがある。排便は誰もがする行為だが、それをおもしろがって白昼堂々と撮影する輩が少なからずいる。あとで写真を掲示板に張られたくない。
私は夜の闇がくるまで我慢することにした。
何も起きない退屈な時間が続いたが、16時頃、私の位置から1kmほど離れた村の端に小さな火の玉が一瞬見えた。実際の大きさは直径5mくらいだろう。土埃が舞う。「もしかしてロケット弾の爆発?」と思うやいなや、“ドーン”という爆発音が耳に届いた。
「ブラック3、敵をコンパウンドに確認。攻撃許可をお願いします。」
第3小隊の小隊長が無線連絡を入れ、そのコンパウンド(土壁でできた現地の家屋)の地点の地理座標を伝えた。中隊長が応答する。
「敵が今も視認できるか?」
「はい。」
平坦な荒野にいる第3小隊から見えるということは、敵は土壁の上部か、壁にある窓や穴や開いた扉から姿を現しているのだろう。中隊長が交信をつづける。
「武器を持っているのが視認できるか?」
「いいえ。」
「撃つな。」
ああ、またこれだ。うっとうしい。私は感情的にそう思った。しかし、理性的には「誤爆・誤射を防ぐには慎重にならざるをえない」と考えた。これがフランス軍のやりかただ。民間人を巻き添えにしてでも多くの敵をやっつけたいとは思わない。私はこのやりかたに賛成する。
結局、攻撃はされず、敵もそれ以上の動きを見せないまま、夜がきて暗くなった。私はプルキエ少佐に「VABの後方30mくらいのところでウンコしてきます」と言い残し、FAMASとスコップを手に、荒野を駆けて行った。
ヘルメットに装着された暗視装置を眼の前に下げ、スコップで荒野を掘りはじめた。大きな石がゴロゴロ埋まっており、なかなか掘り進まない。スコップの先端が石とぶつかり合い、“カンカン・・・”と音をたてた。戦術上、こんな音をたてるのはマズい。
なんとか1個の石を掘りだし、そこにできた穴に排便することにした。私はまずFAMASとヘルメットを地面に置き、アーマーも脱いで地面に置いた。フランス軍の携帯糧食に付いているチリ紙をズボンのポケットから取り出したあと、下半身を露出し、しゃがんだ。
今まで、フランスやアフリカで何度も同じような野糞をした経験があるので、穴を外す心配はなかったが、敵の攻撃が心配だった。ほとんどないとは思うが、敵が気づかれないようにほふく前進をして近づいてくるかもしれないと不安になった。
心配しても仕方がない。ビクビクすることは、敵の来る来ないに何ら影響を及ぼすことはない。私は不安感を無視し、落ち着いて排便を始めた。長いこと我慢していたので、屁がたくさん出るし、便も固めだ。
やがて、暗闇に乗じた戦術的野糞は終わった。少量だができるかぎりの土をかぶせ、石をのせたあと、装備を装着し、FAMASとスコップをとり、VABに戻った。これが我々の戦場における用の足しかただ。敵地深くで活動する特殊部隊なんかは、存在がバレないように、ビニール袋や容器に排便し、携行することがある。恐れいってしまう。
←地面は石が多く、硬くて掘りづらい。
つづく
助手席に座る軍医のプルキエ少佐の太ももあたりに水滴がしたたりだした。雨もりだ。上部のハッチは閉めてあるが、車両が古いので隙間ができているのだ。
プルキエ少佐はできるだけ股を開いて水滴を避けたが、座席のキャンバス生地が濡れ、雨水がしみはじめた。やがては尻が濡れる。少佐はモゾモゾし、よい対策がないようだったので、私は「どうぞ」と、小さく畳んであるポンチョを運転席の隅から取り出し手わたした。
少佐はポンチョを広げ、両脚全体にかけた。水滴はポンチョを伝って、助手席の床に流れていくようになった。床には排水口があるので、水が溜まることはない。
「これはとても効果的だ。ありがとう。」
少佐は嬉しそうに言った。
やがて無線から中隊長の声が流れた。
「レッドの隊員1名が山を徒歩で移動中に転落し、脚を骨折。ヘリで搬出される。」
“レッド”とは第2中隊のコールサインだ。
我々はVABの中にいるので雨の影響は受けないが、山にいる第2中隊の一部にとっては、濡れて滑りやすくなった岩や石が大きな障害となる。少し滑っただけでも、アーマーや武器などの重装備により、バランスを取りもどすことが困難だ。
第2中隊にも専属の医療班がいるので、我々が急行する必要はない。骨折した兵士はフランスに戻ることになるだろう。アフガニスタンに着いてから2ヶ月も経っていないのに、気の毒だ。
昨日からずっと、第3中隊のVAB10台が横1列となり、村に面している。COP建設現場へ敵が向かうことを防ぐためだ。村の端からの距離は1kmもなく、敵が攻撃してきてもおかしくない距離だ。
12時が過ぎた。村は静かだ。もしかしたら、雨に濡れるのが嫌で敵は屋内で休んでいるのかもしれない。そうだとしたら、のどかな連中だが、そうとも限らない。油断はできない。
午後に入ると雨がやんで曇り空となった。それと同時に私は大きいほうの便意を催しはじめた。小便なら、運転席から出てすぐ、ズボンのジッパーを下げ、“チューブ”を出して、タイヤのあたりに放尿すればいいだけだ。
大便となると、ズボンも下着もおろし、しゃがまなければならない。しかも、私の場合、アーマーのサイズがやや大きくて、しゃがむにはアーマーを脱がざるをえない。あまりにも無防備な態勢となる。
それ以上に嫌なのは、まわりの同僚に大便の最中を見られることだ。写真を撮られ、後でひやかしの対象とされることがある。排便は誰もがする行為だが、それをおもしろがって白昼堂々と撮影する輩が少なからずいる。あとで写真を掲示板に張られたくない。
私は夜の闇がくるまで我慢することにした。
何も起きない退屈な時間が続いたが、16時頃、私の位置から1kmほど離れた村の端に小さな火の玉が一瞬見えた。実際の大きさは直径5mくらいだろう。土埃が舞う。「もしかしてロケット弾の爆発?」と思うやいなや、“ドーン”という爆発音が耳に届いた。
「ブラック3、敵をコンパウンドに確認。攻撃許可をお願いします。」
第3小隊の小隊長が無線連絡を入れ、そのコンパウンド(土壁でできた現地の家屋)の地点の地理座標を伝えた。中隊長が応答する。
「敵が今も視認できるか?」
「はい。」
平坦な荒野にいる第3小隊から見えるということは、敵は土壁の上部か、壁にある窓や穴や開いた扉から姿を現しているのだろう。中隊長が交信をつづける。
「武器を持っているのが視認できるか?」
「いいえ。」
「撃つな。」
ああ、またこれだ。うっとうしい。私は感情的にそう思った。しかし、理性的には「誤爆・誤射を防ぐには慎重にならざるをえない」と考えた。これがフランス軍のやりかただ。民間人を巻き添えにしてでも多くの敵をやっつけたいとは思わない。私はこのやりかたに賛成する。
結局、攻撃はされず、敵もそれ以上の動きを見せないまま、夜がきて暗くなった。私はプルキエ少佐に「VABの後方30mくらいのところでウンコしてきます」と言い残し、FAMASとスコップを手に、荒野を駆けて行った。
ヘルメットに装着された暗視装置を眼の前に下げ、スコップで荒野を掘りはじめた。大きな石がゴロゴロ埋まっており、なかなか掘り進まない。スコップの先端が石とぶつかり合い、“カンカン・・・”と音をたてた。戦術上、こんな音をたてるのはマズい。
なんとか1個の石を掘りだし、そこにできた穴に排便することにした。私はまずFAMASとヘルメットを地面に置き、アーマーも脱いで地面に置いた。フランス軍の携帯糧食に付いているチリ紙をズボンのポケットから取り出したあと、下半身を露出し、しゃがんだ。
今まで、フランスやアフリカで何度も同じような野糞をした経験があるので、穴を外す心配はなかったが、敵の攻撃が心配だった。ほとんどないとは思うが、敵が気づかれないようにほふく前進をして近づいてくるかもしれないと不安になった。
心配しても仕方がない。ビクビクすることは、敵の来る来ないに何ら影響を及ぼすことはない。私は不安感を無視し、落ち着いて排便を始めた。長いこと我慢していたので、屁がたくさん出るし、便も固めだ。
やがて、暗闇に乗じた戦術的野糞は終わった。少量だができるかぎりの土をかぶせ、石をのせたあと、装備を装着し、FAMASとスコップをとり、VABに戻った。これが我々の戦場における用の足しかただ。敵地深くで活動する特殊部隊なんかは、存在がバレないように、ビニール袋や容器に排便し、携行することがある。恐れいってしまう。
←地面は石が多く、硬くて掘りづらい。
つづく