2013年05月20日
徒歩パトロールPart4
我々が歩きつづけていると、ふと通路両側の土塀が途切れ、大きな麦畑が現れた。その麦畑はコンパウンドの土壁や土塀に囲まれている。
「休憩だ。」
ボーボニス曹長が言う。第1小隊と第4小隊の進み具合を調節するために我々の前進を中断するのだろう。我々は北に向いて麦畑を眺める感じで、コンパウンドの壁沿いに作られたあぜ道に座り、壁にもたれた。
バックパックやアーマーの肩への負担がやわらぐ。私は深呼吸をし、バックパックから伸びるハイドレーション・リザーバーのチューブから水を飲む。目のまえの麦畑の向こうには、また土塀があり、樹木が塀より遥かに高く突き出ている。その上には澄みきった青空が広がっている。
そのとき青空に“ババババン!”と、短い連射音が響いた。
条件反射が働き、私は飛びこむように麦畑に伏せる。ボーボニス曹長や通信兵、バラシュやオアロ上級軍曹も全く同じことを、ほぼ同時にやった。伏せるさいに、彼らがきれいに同じ動きをしたのを目にし、滑稽だったので、不謹慎だが私は微笑んだ。
銃声はそれだけだったが、どこで誰が発砲したのかわからなかった。私の耳には村の東側、つまり我々第1小隊の担当区域で起きたように聞こえた。確実に言えるのは、私のいるところに向かって発砲されてはいないということだ。
我々が立ちあがると、通信兵の背負う無線機に連絡が入り、その内容をボーボニス曹長が我々に説明をした。
「村の東端でGCPが敵に向け発砲した。敵は逃げたから我々のほうに来るかもしれない。」
GCP(Groupement des Commandos Parachutistes)とは連隊の優秀な隊員で構成されるコマンド小隊だ。私はGCPが我々より東で活動しているとは知らなかった。曹長は知っていたようだ。
曹長が言う。
「なあ、指揮班に衛生要員が3人いるのは無駄じゃないか?オアロとノダは戦闘班と一緒に行動したほうがいい。そうしたほうが、どこで負傷者が発生しても、なるべく速く対処できるだろう。」
オアロ上級軍曹が答える。
「賛成です。私が前の戦闘班に行き、ノダが後ろの戦闘班に行くということでどうでしょう?」
「ああ、それでいい。」
曹長はそう答えると、ヘルメットの下に被っているヘッドセットから伸びるマイクに言った。
「2班、3班、そっちに衛生要員を1名ずつ送る。」
そのヘッドセットのコードは曹長のアーマーのポーチに入った小型無線機ER328につながっていて、この無線は小隊の分隊長のあいだでの交信に使われる。いっぽう、通信兵の背負う大型無線機ER314は中隊長、副中隊長と小隊長らのあいだでの交信に使われる。
オアロ上級軍曹は前から2つ目の第2班に向かい、私は最後尾から2つ目の第3班に合流した。そこの班長でアルゼンチン人のデルトロ軍曹に私は言った。
「一緒に行動します。」
「よし、班の最後尾を務めてくれ。」
鋭い目つきの軍曹が笑顔を見せながら、ドスの効いた声で言った。私は、よく知っている第3班の伍長たちや一等兵たちに「元気か?」と声をかけながら、班の最後尾についた。
やがて小隊は前進を再開した。デルトロ軍曹が班の先頭を歩き、6名の伍長・一等兵がつづき、そのあとを私が歩く。接敵はあるのだろうか?負傷者は発生してしまうのか?
(休憩写真)




つづく
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「休憩だ。」
ボーボニス曹長が言う。第1小隊と第4小隊の進み具合を調節するために我々の前進を中断するのだろう。我々は北に向いて麦畑を眺める感じで、コンパウンドの壁沿いに作られたあぜ道に座り、壁にもたれた。
バックパックやアーマーの肩への負担がやわらぐ。私は深呼吸をし、バックパックから伸びるハイドレーション・リザーバーのチューブから水を飲む。目のまえの麦畑の向こうには、また土塀があり、樹木が塀より遥かに高く突き出ている。その上には澄みきった青空が広がっている。
そのとき青空に“ババババン!”と、短い連射音が響いた。
条件反射が働き、私は飛びこむように麦畑に伏せる。ボーボニス曹長や通信兵、バラシュやオアロ上級軍曹も全く同じことを、ほぼ同時にやった。伏せるさいに、彼らがきれいに同じ動きをしたのを目にし、滑稽だったので、不謹慎だが私は微笑んだ。
銃声はそれだけだったが、どこで誰が発砲したのかわからなかった。私の耳には村の東側、つまり我々第1小隊の担当区域で起きたように聞こえた。確実に言えるのは、私のいるところに向かって発砲されてはいないということだ。
我々が立ちあがると、通信兵の背負う無線機に連絡が入り、その内容をボーボニス曹長が我々に説明をした。
「村の東端でGCPが敵に向け発砲した。敵は逃げたから我々のほうに来るかもしれない。」
GCP(Groupement des Commandos Parachutistes)とは連隊の優秀な隊員で構成されるコマンド小隊だ。私はGCPが我々より東で活動しているとは知らなかった。曹長は知っていたようだ。
曹長が言う。
「なあ、指揮班に衛生要員が3人いるのは無駄じゃないか?オアロとノダは戦闘班と一緒に行動したほうがいい。そうしたほうが、どこで負傷者が発生しても、なるべく速く対処できるだろう。」
オアロ上級軍曹が答える。
「賛成です。私が前の戦闘班に行き、ノダが後ろの戦闘班に行くということでどうでしょう?」
「ああ、それでいい。」
曹長はそう答えると、ヘルメットの下に被っているヘッドセットから伸びるマイクに言った。
「2班、3班、そっちに衛生要員を1名ずつ送る。」
そのヘッドセットのコードは曹長のアーマーのポーチに入った小型無線機ER328につながっていて、この無線は小隊の分隊長のあいだでの交信に使われる。いっぽう、通信兵の背負う大型無線機ER314は中隊長、副中隊長と小隊長らのあいだでの交信に使われる。
オアロ上級軍曹は前から2つ目の第2班に向かい、私は最後尾から2つ目の第3班に合流した。そこの班長でアルゼンチン人のデルトロ軍曹に私は言った。
「一緒に行動します。」
「よし、班の最後尾を務めてくれ。」
鋭い目つきの軍曹が笑顔を見せながら、ドスの効いた声で言った。私は、よく知っている第3班の伍長たちや一等兵たちに「元気か?」と声をかけながら、班の最後尾についた。
やがて小隊は前進を再開した。デルトロ軍曹が班の先頭を歩き、6名の伍長・一等兵がつづき、そのあとを私が歩く。接敵はあるのだろうか?負傷者は発生してしまうのか?
(休憩写真)
つづく
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※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
私は陸自で衛生として任務についており、野田さんのブログは非常に勉強になります。
今後も色々な経験を教えて下さい。
衛生任務、ご苦労様です。
自衛隊の皆さんのお役に立てれば光栄です。
実は、多くの衛生科のかたがたに仲良くしていただいており、感謝しております。