2013年01月28日
コンタクトPart2
「ブラック、こちらサンダー。RPGを持つ敵1名を確認。座標は・・・。」
無線から音声が聞こえた。「サンダー」というコールサインを持つ35RAPの観測班が、敵のいる地点の地理座標を中隊長に報告している。離れた観測地点から高性能監視機器で村のなかの敵を捉えたのだ。
「ブラック、こちらソード。敵を視認している。発砲許可を要請する。」
今度は「ソード」、つまりTE(精鋭射手)班から無線が入った。その敵を狙撃する準備ができたようだ。あとは中隊長が発砲許可を下せばいい。
中隊長が応答する。
「待て・・・。」
「えっ、なんで?」と思った。明らかに敵である人間をたおすチャンスなんだから、「よし撃て」と言えばいいじゃないか。
少しして、ふたたび無線に中隊長の声が入った。
「撃つな。」
「了解。」
TE班は撃たないことを了解した。命令は命令だ。仕方ない。「待て」から「撃つな」の命令の間の時間、中隊長は連隊長などの連隊上層部に許可を申請していたのだろう。しかし却下された。
やがて、観測班が無線で言った。
「RPGを持った敵は建物に入り、現在は目視不可能。」
しばらくして、アメリカ軍のF15戦闘機が上空を飛び始めた。ときどき村の真上を低空飛行し、敵を威嚇した。これにより、敵も村人も皆、屋内に隠れてしまったにちがいない。とりあえず脅威は去った。
ADU(中隊の最先任下士官)、我々医療班、車両整備班、工兵小隊のVABは移動を始めた。我々はADU、車両整備班とともに戦闘小隊の後方数百mくらいの荒野に陣取った。ワディ(涸れ谷)から開けた荒野に出たので、村を眺めることができるようになった。工兵小隊はどこか別の場所へ行った。
午後になり、F15がバグラム航空基地へと飛び去り、静かな時間がやってきた。ますます暇になった。すると、観測班から無線が入った。
「村のなかを約40名の非武装の人々が北に向かい歩いている。さらに約20名が南に向かい歩いている。」
すごい人数だ。戦闘が始まり、どこかに隠れていた現地民が動きだしたのだ。彼らにだって、今日中にやらなければならない農作業などがあるはずだ。足止めをくらって、今ごろ文句を言っているにちがいない。
我々と敵との戦闘は、彼らにとっては、台風や洪水のような災害みたいな感覚なのかもしれない。戦闘が台風のように過ぎ去れば、普段の農作業を始める。この村に天気予報が存在するなら、「今日の天気は、晴れのち戦闘、そののち晴れ」のような予報が報道されるのだろう。
静かな時間が長くつづき、退屈の度合いがピークに達してきた。運転席に座りっぱなしで尻が痛い。VAB後部のオアロ上級軍曹とミッサニ伍長は、後部扉を開け、外に出て、立ち小便をしたり、携帯コンロで湯を沸かし、コーヒーを入れ始めた。
とうとう私も運転席上部のハッチを開け、座席に立ち、胸から上を外に出した。背伸びをし、上体を左右にひねり、コリをほぐす。広がる荒野や遠くに見える雪山の山脈を眺めた。自然は美しい。
“パパパパパパン!”
“ドドドドドドン!”
突如、村から銃声が響き、OMLTやアフガン軍が応戦した。5.56mm、7.62mm、12.7mmの発射音が混ざる。
我々の位置からは遠かったので、当たらないだろうと、私は隠れなかった。すると、近くの空中で“ヒュン”と音がした。流れ弾が1発、そこを通ったのだ。自分から約20mくらいの距離に感じた。
若干、離れているうえに、私を狙って撃った弾ではなかったので、恐怖は感じなかった。しかし、次に来る弾丸が当たると嫌なので、私は素直に運転席に入った。後部の2人も車内後部に入り、そこでコーヒーを飲んだ。緊張感のかけらもない。
銃声はすぐにやんだ。無線で観測班の報告が聞こえる。
「負傷した敵が4名見える。」
やった!戦果が出た。負傷した敵は他の敵たちによって、どこかへと運ばれていった。無線では、負傷の種類や箇所など、詳しいことはわからなかった。しかし、少なくとも敵にダメージを与えることができた。私の手によるものではないが、嬉しかった。
その後は何も起きないまま、夜になった。OMLTとアフガン軍はCOPフォンチーに帰還した。我々は、ADU班、医療班、車両整備班の乗員で、交替で見張りにつき、夜を過ごした。
見張りは、小さな円陣を組んだ3台のVABの周囲をグルグルと巡回するだけだった。暗視装置で時々周囲を見渡し、近づいてくる者がいないか、見張った。
結局、なにも起きず、翌朝4時半ころ、暗闇のなかを暗視装置を使い、我々は皆、離脱した。グリーンゾーンからじゅうぶん離れると、暗視装置からヘッドライトに切り替え、FOBトラに帰還した。全員無事で、第3中隊の車両には弾痕は一切なかった。OMLTやアフガン軍の車両についてはわからない。
今回の任務は、戦闘があったにもかかわらず、全体としては退屈だった。しかし、本当の戦争ではそういう時間のほうがはるかに多いのではないだろうか。アクション映画ではいつも派手だ。イメージと現実は違う。
とりあえず、敵が本当に潜んでいるということを実感することができた。しかも惜しみなく撃ってくる。これからの任務において、何とか民間人に被害を出さずに敵を排除できるといい。



←アフガン軍
←バグラムを離陸するF15と見物する仏兵
←コーヒーを入れるとすぐにハエがたかる
つづく
無線から音声が聞こえた。「サンダー」というコールサインを持つ35RAPの観測班が、敵のいる地点の地理座標を中隊長に報告している。離れた観測地点から高性能監視機器で村のなかの敵を捉えたのだ。
「ブラック、こちらソード。敵を視認している。発砲許可を要請する。」
今度は「ソード」、つまりTE(精鋭射手)班から無線が入った。その敵を狙撃する準備ができたようだ。あとは中隊長が発砲許可を下せばいい。
中隊長が応答する。
「待て・・・。」
「えっ、なんで?」と思った。明らかに敵である人間をたおすチャンスなんだから、「よし撃て」と言えばいいじゃないか。
少しして、ふたたび無線に中隊長の声が入った。
「撃つな。」
「了解。」
TE班は撃たないことを了解した。命令は命令だ。仕方ない。「待て」から「撃つな」の命令の間の時間、中隊長は連隊長などの連隊上層部に許可を申請していたのだろう。しかし却下された。
やがて、観測班が無線で言った。
「RPGを持った敵は建物に入り、現在は目視不可能。」
しばらくして、アメリカ軍のF15戦闘機が上空を飛び始めた。ときどき村の真上を低空飛行し、敵を威嚇した。これにより、敵も村人も皆、屋内に隠れてしまったにちがいない。とりあえず脅威は去った。
ADU(中隊の最先任下士官)、我々医療班、車両整備班、工兵小隊のVABは移動を始めた。我々はADU、車両整備班とともに戦闘小隊の後方数百mくらいの荒野に陣取った。ワディ(涸れ谷)から開けた荒野に出たので、村を眺めることができるようになった。工兵小隊はどこか別の場所へ行った。
午後になり、F15がバグラム航空基地へと飛び去り、静かな時間がやってきた。ますます暇になった。すると、観測班から無線が入った。
「村のなかを約40名の非武装の人々が北に向かい歩いている。さらに約20名が南に向かい歩いている。」
すごい人数だ。戦闘が始まり、どこかに隠れていた現地民が動きだしたのだ。彼らにだって、今日中にやらなければならない農作業などがあるはずだ。足止めをくらって、今ごろ文句を言っているにちがいない。
我々と敵との戦闘は、彼らにとっては、台風や洪水のような災害みたいな感覚なのかもしれない。戦闘が台風のように過ぎ去れば、普段の農作業を始める。この村に天気予報が存在するなら、「今日の天気は、晴れのち戦闘、そののち晴れ」のような予報が報道されるのだろう。
静かな時間が長くつづき、退屈の度合いがピークに達してきた。運転席に座りっぱなしで尻が痛い。VAB後部のオアロ上級軍曹とミッサニ伍長は、後部扉を開け、外に出て、立ち小便をしたり、携帯コンロで湯を沸かし、コーヒーを入れ始めた。
とうとう私も運転席上部のハッチを開け、座席に立ち、胸から上を外に出した。背伸びをし、上体を左右にひねり、コリをほぐす。広がる荒野や遠くに見える雪山の山脈を眺めた。自然は美しい。
“パパパパパパン!”
“ドドドドドドン!”
突如、村から銃声が響き、OMLTやアフガン軍が応戦した。5.56mm、7.62mm、12.7mmの発射音が混ざる。
我々の位置からは遠かったので、当たらないだろうと、私は隠れなかった。すると、近くの空中で“ヒュン”と音がした。流れ弾が1発、そこを通ったのだ。自分から約20mくらいの距離に感じた。
若干、離れているうえに、私を狙って撃った弾ではなかったので、恐怖は感じなかった。しかし、次に来る弾丸が当たると嫌なので、私は素直に運転席に入った。後部の2人も車内後部に入り、そこでコーヒーを飲んだ。緊張感のかけらもない。
銃声はすぐにやんだ。無線で観測班の報告が聞こえる。
「負傷した敵が4名見える。」
やった!戦果が出た。負傷した敵は他の敵たちによって、どこかへと運ばれていった。無線では、負傷の種類や箇所など、詳しいことはわからなかった。しかし、少なくとも敵にダメージを与えることができた。私の手によるものではないが、嬉しかった。
その後は何も起きないまま、夜になった。OMLTとアフガン軍はCOPフォンチーに帰還した。我々は、ADU班、医療班、車両整備班の乗員で、交替で見張りにつき、夜を過ごした。
見張りは、小さな円陣を組んだ3台のVABの周囲をグルグルと巡回するだけだった。暗視装置で時々周囲を見渡し、近づいてくる者がいないか、見張った。
結局、なにも起きず、翌朝4時半ころ、暗闇のなかを暗視装置を使い、我々は皆、離脱した。グリーンゾーンからじゅうぶん離れると、暗視装置からヘッドライトに切り替え、FOBトラに帰還した。全員無事で、第3中隊の車両には弾痕は一切なかった。OMLTやアフガン軍の車両についてはわからない。
今回の任務は、戦闘があったにもかかわらず、全体としては退屈だった。しかし、本当の戦争ではそういう時間のほうがはるかに多いのではないだろうか。アクション映画ではいつも派手だ。イメージと現実は違う。
とりあえず、敵が本当に潜んでいるということを実感することができた。しかも惜しみなく撃ってくる。これからの任務において、何とか民間人に被害を出さずに敵を排除できるといい。
つづく
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これは本人達の資質ですか。
それとも訓練のほうが厳しいからですか。
わかりませんが、両方あるかもしれないですね。