2013年01月21日
コンタクト(接敵)
10時50分ころ、35RAPの観測班からの無線交信が聞こえた。
「村のモスク(イスラム寺院)にAK、PKM、RPGで武装した男たち13名が入って行った。」
その10分後、さらに報告が無線で伝えられる。
「モスクから13名が出た。武装している。」
「了解」
中隊長が応答する。
モスクの周りは広場になっており、監視所からよく見えるが、そこから通路に敵が入ると見失ってしまう。通路の両脇に沿って、高さ2mほどの土壁が連なっているからだ。ヘリやドローンが敵の真上から観測すれば見つけられることもあるが、意外と難しいらしい。農具を持った非戦闘員の村人たちもいる。
新たに無線交信が入った。今度は、アフガン陸軍と行動をともにしている仏軍OMLT部隊の小隊長から、われわれ第3中隊の中隊長への交信だ。
「ブラック(中隊長コールサイン)、こちらオリオン(OMLTコールサイン)。これよりANA(アフガン国軍)とともにそちらへ向かう。」
OMLTとアフガン陸軍部隊も作戦に参加するようだ。
OMLTのVAB数台とアフガン陸軍のハンヴィーやトヨタ・ピックアップトラック数台は、南側から戦闘小隊のVAB群にむけて、荒野を北上していた。我々の待機しているワディの下流域を横切るのが遠くに見え、すぐに見えなくなった。もうすぐ第3中隊のVAB群に合流するだろう。
突然、無線からOMLT隊長の大声が聞こえた。
「オリオン、コンタクト(接敵)!」
ついに始まった。私はVABの座席に深く座りなおした。
パパパパン・・・。敵のAK小銃の連射音が離れた我々のもとに聞こえてきた。「あぁ、本当に撃ってくるもんなんだなぁ」「本当に敵って存在するんだなぁ」「本当にここは戦争してるんだなぁ」と思った。
OMLT隊長がその敵の位置を無線で皆に知らせようと、あらかじめ部隊で決められている村内区画のコールサインを、興奮で声を荒げて言った。
「エコー8地点より敵の攻撃あり!現在、応戦中!“バンバンバンバンバンバン・・・”」
交信の最後に、OMLTのVABに搭載されたブローニングM2重機関銃が12.7mm弾を連射する爆音がまぎれこんだ。その1~2秒後、遠くから「バンバンバンバンバンバン・・・」という連射音が私の耳に届いた。
それは、無線で聞いたM2重機関銃の連射音と同一のもので、音が空気を伝わる速度より、無線電波の速度のほうが速いため、ズレが発生したのだ。あたりまえの現象ではあるが、理科の実験を成功させる小学生のように感動した。
ついに交戦となった今、我が中隊はどう動くのか?負傷者が発生し、我々医療班の出番は来るのか?気が引き締まった。
銃撃戦はつづく。しかし、私の位置からは何も見えない。発砲音を聞き、無線で交信される会話内容から状況を読みとることしかできない。OMLT、アフガン軍、戦闘小隊、中隊長班は敵弾の脅威にさらされているのに、私自身は銃弾の飛んでこないワディのなかでじっとしている。
命の危険を冒している彼らに対し、申し訳ないという思いが込みあげ、安全を享受している自分に少しイライラしてきた。冷静になるべきだ。そこで、「今はここで待機するのが自分の役割だ」と自分に言い聞かせ、落ち着きを取りもどした。もし重傷者が発生したら、我々医療班は彼らが同情するくらい忙しくなる。
それに、今、最前線にいる仲間のほとんどが、自分たちの置かれた状況に満足しているだろう。敵と直接対峙する経験は貴重だ。もし私が、「きみらの立場と私の立場を交換しよう」と提案しても、彼らは断るだろう。だから彼らに申し訳ないという思いを抱く必要もない。ひとつ大口を叩かせてもらえるなら、逆に彼らこそ、陰で暇をしている私に申し訳ないと思うべきだ。
“ドゥゥゥン!”
大きな爆発音が聞こえた。
“ドゥゥゥン!”
また聞こえた。
2個戦闘小隊のうちの1つ、第3小隊の小隊長が無線で中隊長に報告するところによると、敵がRPG-7を発射したらしい。放たれたロケット弾は2発とも外れ、地面に当たり爆発した。
戦闘小隊の同僚にあとで聞いたのだが、ロケット弾が炸裂した地面には、直径約1.5m、深さ約1mのクレーターができていた。その同僚曰く、「ここの地中は石だらけで固いのに、こんなに大きな穴があいた。あんなのがVABに命中したら絶対に助からない。」
“ドゥゥゥン!”
ふたたびRPGの爆発が聞こえた。無線によると、アフガン兵が発射したものらしい。残念ながら成果はなかった。少しして銃撃もやんだ。
あとで聞いたのだが、この銃撃戦ではOMLTとアフガン軍だけが応戦していた。戦闘小隊は撃たなかった。小隊長たちが発砲許可を出さなかったという。実際に直接攻撃を受けたのはOMLTとアフガン軍だけで、彼らは戦闘小隊よりも村に近づいたため、攻撃を受けたらしい。



↑タガブ谷の荒野
つづく
「村のモスク(イスラム寺院)にAK、PKM、RPGで武装した男たち13名が入って行った。」
その10分後、さらに報告が無線で伝えられる。
「モスクから13名が出た。武装している。」
「了解」
中隊長が応答する。
モスクの周りは広場になっており、監視所からよく見えるが、そこから通路に敵が入ると見失ってしまう。通路の両脇に沿って、高さ2mほどの土壁が連なっているからだ。ヘリやドローンが敵の真上から観測すれば見つけられることもあるが、意外と難しいらしい。農具を持った非戦闘員の村人たちもいる。
新たに無線交信が入った。今度は、アフガン陸軍と行動をともにしている仏軍OMLT部隊の小隊長から、われわれ第3中隊の中隊長への交信だ。
「ブラック(中隊長コールサイン)、こちらオリオン(OMLTコールサイン)。これよりANA(アフガン国軍)とともにそちらへ向かう。」
OMLTとアフガン陸軍部隊も作戦に参加するようだ。
OMLTのVAB数台とアフガン陸軍のハンヴィーやトヨタ・ピックアップトラック数台は、南側から戦闘小隊のVAB群にむけて、荒野を北上していた。我々の待機しているワディの下流域を横切るのが遠くに見え、すぐに見えなくなった。もうすぐ第3中隊のVAB群に合流するだろう。
突然、無線からOMLT隊長の大声が聞こえた。
「オリオン、コンタクト(接敵)!」
ついに始まった。私はVABの座席に深く座りなおした。
パパパパン・・・。敵のAK小銃の連射音が離れた我々のもとに聞こえてきた。「あぁ、本当に撃ってくるもんなんだなぁ」「本当に敵って存在するんだなぁ」「本当にここは戦争してるんだなぁ」と思った。
OMLT隊長がその敵の位置を無線で皆に知らせようと、あらかじめ部隊で決められている村内区画のコールサインを、興奮で声を荒げて言った。
「エコー8地点より敵の攻撃あり!現在、応戦中!“バンバンバンバンバンバン・・・”」
交信の最後に、OMLTのVABに搭載されたブローニングM2重機関銃が12.7mm弾を連射する爆音がまぎれこんだ。その1~2秒後、遠くから「バンバンバンバンバンバン・・・」という連射音が私の耳に届いた。
それは、無線で聞いたM2重機関銃の連射音と同一のもので、音が空気を伝わる速度より、無線電波の速度のほうが速いため、ズレが発生したのだ。あたりまえの現象ではあるが、理科の実験を成功させる小学生のように感動した。
ついに交戦となった今、我が中隊はどう動くのか?負傷者が発生し、我々医療班の出番は来るのか?気が引き締まった。
銃撃戦はつづく。しかし、私の位置からは何も見えない。発砲音を聞き、無線で交信される会話内容から状況を読みとることしかできない。OMLT、アフガン軍、戦闘小隊、中隊長班は敵弾の脅威にさらされているのに、私自身は銃弾の飛んでこないワディのなかでじっとしている。
命の危険を冒している彼らに対し、申し訳ないという思いが込みあげ、安全を享受している自分に少しイライラしてきた。冷静になるべきだ。そこで、「今はここで待機するのが自分の役割だ」と自分に言い聞かせ、落ち着きを取りもどした。もし重傷者が発生したら、我々医療班は彼らが同情するくらい忙しくなる。
それに、今、最前線にいる仲間のほとんどが、自分たちの置かれた状況に満足しているだろう。敵と直接対峙する経験は貴重だ。もし私が、「きみらの立場と私の立場を交換しよう」と提案しても、彼らは断るだろう。だから彼らに申し訳ないという思いを抱く必要もない。ひとつ大口を叩かせてもらえるなら、逆に彼らこそ、陰で暇をしている私に申し訳ないと思うべきだ。
“ドゥゥゥン!”
大きな爆発音が聞こえた。
“ドゥゥゥン!”
また聞こえた。
2個戦闘小隊のうちの1つ、第3小隊の小隊長が無線で中隊長に報告するところによると、敵がRPG-7を発射したらしい。放たれたロケット弾は2発とも外れ、地面に当たり爆発した。
戦闘小隊の同僚にあとで聞いたのだが、ロケット弾が炸裂した地面には、直径約1.5m、深さ約1mのクレーターができていた。その同僚曰く、「ここの地中は石だらけで固いのに、こんなに大きな穴があいた。あんなのがVABに命中したら絶対に助からない。」
“ドゥゥゥン!”
ふたたびRPGの爆発が聞こえた。無線によると、アフガン兵が発射したものらしい。残念ながら成果はなかった。少しして銃撃もやんだ。
あとで聞いたのだが、この銃撃戦ではOMLTとアフガン軍だけが応戦していた。戦闘小隊は撃たなかった。小隊長たちが発砲許可を出さなかったという。実際に直接攻撃を受けたのはOMLTとアフガン軍だけで、彼らは戦闘小隊よりも村に近づいたため、攻撃を受けたらしい。
↑タガブ谷の荒野
つづく
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
貴重な体験談をありがとうございます、とても興味深いです。
日本が平和だということが改めて感じさせられました。
コメント、ありがとうございます。
なるべく臨場感を出せるよう、頑張ります。
日本の平和を守る自衛隊や海上保安庁、警察、在日米軍に感謝したいです。
どのような点に気おつけていましたか?
怠ける気が満々の部下がいるとめんどくさかったです。頑張って何かをやろうとして失敗する後輩はかわいいもんです。
気をつけていたことは、命令などの伝達をシンプルな仏単語で伝えるという点です。難しい単語は外人新兵には理解されませんから。