2013年03月04日

新COP建設Part4

 翌朝、珍しく雨が降りだした。灼熱の太陽は隠れ、気温が下がっているが、まだまだ暑い。雨あしは強くはないが、VABから外に出ればすぐに全身ずぶ濡れになるだろう。

 助手席に座る軍医のプルキエ少佐の太ももあたりに水滴がしたたりだした。雨もりだ。上部のハッチは閉めてあるが、車両が古いので隙間ができているのだ。

 プルキエ少佐はできるだけ股を開いて水滴を避けたが、座席のキャンバス生地が濡れ、雨水がしみはじめた。やがては尻が濡れる。少佐はモゾモゾし、よい対策がないようだったので、私は「どうぞ」と、小さく畳んであるポンチョを運転席の隅から取り出し手わたした。

 少佐はポンチョを広げ、両脚全体にかけた。水滴はポンチョを伝って、助手席の床に流れていくようになった。床には排水口があるので、水が溜まることはない。

「これはとても効果的だ。ありがとう。」
少佐は嬉しそうに言った。

 やがて無線から中隊長の声が流れた。
「レッドの隊員1名が山を徒歩で移動中に転落し、脚を骨折。ヘリで搬出される。」
“レッド”とは第2中隊のコールサインだ。

 我々はVABの中にいるので雨の影響は受けないが、山にいる第2中隊の一部にとっては、濡れて滑りやすくなった岩や石が大きな障害となる。少し滑っただけでも、アーマーや武器などの重装備により、バランスを取りもどすことが困難だ。

 第2中隊にも専属の医療班がいるので、我々が急行する必要はない。骨折した兵士はフランスに戻ることになるだろう。アフガニスタンに着いてから2ヶ月も経っていないのに、気の毒だ。

 昨日からずっと、第3中隊のVAB10台が横1列となり、村に面している。COP建設現場へ敵が向かうことを防ぐためだ。村の端からの距離は1kmもなく、敵が攻撃してきてもおかしくない距離だ。

 12時が過ぎた。村は静かだ。もしかしたら、雨に濡れるのが嫌で敵は屋内で休んでいるのかもしれない。そうだとしたら、のどかな連中だが、そうとも限らない。油断はできない。

 午後に入ると雨がやんで曇り空となった。それと同時に私は大きいほうの便意を催しはじめた。小便なら、運転席から出てすぐ、ズボンのジッパーを下げ、“チューブ”を出して、タイヤのあたりに放尿すればいいだけだ。

 大便となると、ズボンも下着もおろし、しゃがまなければならない。しかも、私の場合、アーマーのサイズがやや大きくて、しゃがむにはアーマーを脱がざるをえない。あまりにも無防備な態勢となる。

 それ以上に嫌なのは、まわりの同僚に大便の最中を見られることだ。写真を撮られ、後でひやかしの対象とされることがある。排便は誰もがする行為だが、それをおもしろがって白昼堂々と撮影する輩が少なからずいる。あとで写真を掲示板に張られたくない。

 私は夜の闇がくるまで我慢することにした。

 何も起きない退屈な時間が続いたが、16時頃、私の位置から1kmほど離れた村の端に小さな火の玉が一瞬見えた。実際の大きさは直径5mくらいだろう。土埃が舞う。「もしかしてロケット弾の爆発?」と思うやいなや、“ドーン”という爆発音が耳に届いた。

「ブラック3、敵をコンパウンドに確認。攻撃許可をお願いします。」
第3小隊の小隊長が無線連絡を入れ、そのコンパウンド(土壁でできた現地の家屋)の地点の地理座標を伝えた。中隊長が応答する。

「敵が今も視認できるか?」
「はい。」
平坦な荒野にいる第3小隊から見えるということは、敵は土壁の上部か、壁にある窓や穴や開いた扉から姿を現しているのだろう。中隊長が交信をつづける。

「武器を持っているのが視認できるか?」
「いいえ。」
「撃つな。」

 ああ、またこれだ。うっとうしい。私は感情的にそう思った。しかし、理性的には「誤爆・誤射を防ぐには慎重にならざるをえない」と考えた。これがフランス軍のやりかただ。民間人を巻き添えにしてでも多くの敵をやっつけたいとは思わない。私はこのやりかたに賛成する。

 結局、攻撃はされず、敵もそれ以上の動きを見せないまま、夜がきて暗くなった。私はプルキエ少佐に「VABの後方30mくらいのところでウンコしてきます」と言い残し、FAMASとスコップを手に、荒野を駆けて行った。

 ヘルメットに装着された暗視装置を眼の前に下げ、スコップで荒野を掘りはじめた。大きな石がゴロゴロ埋まっており、なかなか掘り進まない。スコップの先端が石とぶつかり合い、“カンカン・・・”と音をたてた。戦術上、こんな音をたてるのはマズい。

 なんとか1個の石を掘りだし、そこにできた穴に排便することにした。私はまずFAMASとヘルメットを地面に置き、アーマーも脱いで地面に置いた。フランス軍の携帯糧食に付いているチリ紙をズボンのポケットから取り出したあと、下半身を露出し、しゃがんだ。

 今まで、フランスやアフリカで何度も同じような野糞をした経験があるので、穴を外す心配はなかったが、敵の攻撃が心配だった。ほとんどないとは思うが、敵が気づかれないようにほふく前進をして近づいてくるかもしれないと不安になった。

 心配しても仕方がない。ビクビクすることは、敵の来る来ないに何ら影響を及ぼすことはない。私は不安感を無視し、落ち着いて排便を始めた。長いこと我慢していたので、屁がたくさん出るし、便も固めだ。

 やがて、暗闇に乗じた戦術的野糞は終わった。少量だができるかぎりの土をかぶせ、石をのせたあと、装備を装着し、FAMASとスコップをとり、VABに戻った。これが我々の戦場における用の足しかただ。敵地深くで活動する特殊部隊なんかは、存在がバレないように、ビニール袋や容器に排便し、携行することがある。恐れいってしまう。

←地面は石が多く、硬くて掘りづらい。

つづく







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Posted by 野田力  at 07:00 │Comments(2)アフガニスタン

この記事へのコメント
まさかウンコする記事だとは思ってなかったので笑ってしまいました(笑)

外人部隊の中隊について思った事なんですが、自分のいる中隊から希望してない中隊に飛ばされる事などあるんですか?
Posted by あ at 2013年03月10日 16:18
「あ」さん
「うんこすること」のような、汚いながらも、人間にとって必要なことにスポットを当てるのが私は好きです。
また、戦場において、どこでいつ、どのように排泄するかという情報は、これから戦地に赴く人たちにとって、貴重な情報ではないかと思い、赤裸々に書きました。

中隊についてですが、異動を希望していなくても、別中隊や別連隊に飛ばされることはあります。
そもそも、最初の中隊配属自体、自分の希望を聞いてもらえることは、ほとんどありません。
私は山岳中隊に行きたかったんですが、舟艇中隊に配属され、除隊までそこで過ごしました。
今思えば舟艇中隊で良かったと思います。パラシュートで海に降りたり、ヘリから海に飛びこんだり、ゾディアック・ボートを操縦したり、ボートや泳ぎで上陸したり・・・。
少しだけ、SBSやネイビーシールみたいな雰囲気を味わえました。
Posted by 野田力野田力 at 2013年03月10日 16:50
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