2012年10月22日

FOBトラにて

はじめに
 先日、テレビをつけたら、「奇跡体験アンビリーバボー」で、1994年末におきたエールフランス機ハイジャック事件を紹介していました。
 フランス国家憲兵隊の特殊部隊「GIGN」が突入し解決を迎えた事件なのですが、昨年フランスで映画化され、日本でも渋谷の劇場で2週間だけ上映されました。
 タイトルが「フランス特殊部隊GIGN ~エールフランス8969便ハイジャック事件~」といい、DVD化されていると思いますので、興味のあるかたは是非ご覧になってください。
 私もパリの映画館で2回、渋谷で1回見ました。GIGN隊員の“決意”に何度も心を打たれました。とても尊敬し、憧れています。

――――――――――

アフガニスタンに到着してから5日が経った。昼夜の寒暖差や、乾燥した空気により、体に変化が出始めた。くちびる、鼻の粘膜、手の甲、内股がカサカサになった。痛くはないが、ひび割れになるのではないかと気になる。

アフガニスタンに行くのなら、ハンドクリームやリップクリームは必ず持参するべきだ。トイレで気づいたのだが、亀頭までもがカサカサになっていた。私の体が気候に順応するか、春が来て気温や湿度に変化が起きれば、肌は潤いを取り戻すだろう。

日差しも強敵だった。とにかく眩しい。2007年にアフリカのジブチという、世界一暑いと言われる国に派遣されたのだが、そこで体験した太陽はアフガンの太陽より熱かった。しかし、眩しさではアフガンの太陽が勝る。標高が高く、太陽に近いからかもしれない。

FOBトラにてFOBトラにて←2007年ジブチ共和国にて

ESS社の射撃用サングラスを買っておけばよかったと、後悔した。私のESSゴーグルは透明レンズだ。紫外線はカットするが、眩しさはどうにもならない。それに、基地内でゴーグルなど着けたくない。邪魔だ。結局、私にできることは、迷彩ハットをかぶり、目を細めるくらいだ。

そんな中、私は車両整備区域の倉庫から、いくつかのサイズの古い偽装ネットを10枚ほどもらい、ミッサニ伍長とともに、VABに偽装ネットを施す作業にとりかかった。ネットの多くは森林用の緑系の色だが、砂漠用のタン系の色のものが2~3枚あった。

色の系統が統一されていないが、カモフラージュを施して、周囲の環境に溶け込むわけではないので問題ない。VABの外側に設置した金網カゴにある4つの担架を隠すことが一番の目的だ。我々は、まず、担架が見えないように、カゴを覆うようにネットをかぶせ、切ったヒモやフック付きエラスティックコードで車体の突起物などと結んだ。

そして、他のVABの多くが施されているのと同じように、車体の前後左右に、可能な限り均等にネットを設置した。ネットの数が足りないので、車体全体をカバーできないが、他のVABも似た感じなので、我々のVABが医療用だとは敵も見破れないだろう。

ネット設置の後、我々は、ラッション(携帯糧食)を30箱ほどと、1.5リットルのペットボトルの水を100本ほど、VABの屋根の金網製の物置や車内に積みこんだ。多過ぎる気がしないでもないが、念のためだし、それでもまだスペースに余裕がある。

そのスペースには、我々乗員のバックパックが収納される予定だ。医療用バックパックは車内に置くが、着替えや雨具、野宿装備などの入ったバックパックは緊急性が高くないので、屋根の物置に置く。

実は、その物置には5つの死体袋がある。強化ビニールのような素材でできており、黒と緑の2種類がある。ジッパー開閉式だ。初めて死体袋を見た。試しに入ってみようと思ったが、やめておいた。こういうもので遊ぶべきではない。そもそも、救命用の車両にこんなものを積むなんて、精神衛生上、よくない。はたして我々は実戦で死体袋を使う状況に陥るのだろうか。そう思いつつ、私は死体袋をたたみ直し、物置に収納した。

FOBトラにて←死体袋

第3中隊のVABのほとんどは、居住区の裏手に駐車されているが、我々医療班のVABは、FOBの診療所入口から15mほど離れたところに駐車されていた。診療所に近いほうが、医療品を積むのに便利だし、車載の患者監視モニタ(心拍数や血圧、呼吸などを表示する、小型テレビのような機材)を非番のときに降ろして、診療所で充電する必要もある。


つづく

アフガン体験記は毎週月曜日に更新します。ご意見・ご感想など、お待ちしています。





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Posted by 野田力  at 07:00 │Comments(2)アフガニスタン

この記事へのコメント
はじめて、最近ブログの存在を知り読ませていただいてます。
私は22歳3曹の現職自衛官で16で入隊しました。
職種は武器科で整備士をやっています。
自衛隊でやりたいことをやり終えたら26までに渡仏して外人部隊に入隊しようかと思っています。
これから時々質問させて頂くかもしれませんがよろしくお願いします。
Posted by たつ at 2012年10月28日 02:48
たつさん
コメント、ありがとうございます。
自衛隊入隊試験に落ちた私としては、たつさんには自衛隊に残って頂きたいというのが本音ですが、たつさんの人生ですので外人部隊入隊も選択肢に入っていても良いですよね。
私に答えられることでしたら、答えていきたいと思います。
Posted by 野田力野田力 at 2012年10月28日 09:36
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