2012年10月08日

アフガン兵たちとの交流

私が調理場に入ってきたアフガン兵に歩み寄ると、お互いに通じる英語での会話が始まった。
「僕の名前はノダだ。フランス兵だ。」
「私はラゼックだ。昼食を一緒に食べよう。」

私はどう答えるべきか悩んだ。あまり物質的に豊かではないアフガン兵に甘えてよいのだろうか。私が食べることで、彼らの食べる量が減ってしまったら申し訳ない。1~2秒後、私は答えた。
「是非!」

アフガニスタンにはよそ者を手厚くもてなす文化があるので、食事を断ることは、ラゼックの好意を踏みにじることになると私は判断した。食べないと失礼だ。

ラゼックはカマドの番をしている炊事兵にダリ語で何かを伝えた。料理を皿に盛るように言ったのだろう。炊事兵が左手で大皿をとり、右手でオタマをつかみ、カマドのそばのバケツのような黄色いプラスチック容器から、ご飯をよそうのが見えた。容器の外観は少し汚れているが、内側はどうなのだろう?

「こっちで食べよう。」
ラゼックが言い、歩き出したので、私はついて行った。

調理場を出てすぐのところにプラスチックの青いイスが1つだけあり、ラゼックは私に座るように言った。私がイスに腰掛けようとすると、彼はイスから1mほど離れた地面にしゃがんだ。現地の文化からして、標準的な座り方だ。私はそれを見て、イスに座るのをやめ、イスをどかして地面にしゃがんだ。それを見て、ラゼックが言った。

「イスに座る方が楽だろう。遠慮するな。」
「いやいや。アフガン式にやりたい。異文化が大好きなんだ。」
私が答えると、ラゼックは微笑んだ。

カマドの炊事兵が皿に盛った料理を持ってきた。ご飯に肉スープをかけたものだ。ぶつ切りの肉とジャガイモが何切れか載っている。炊事兵は皿を、ラゼックと私のあいだの地面に置いて、自分もしゃがんだ。3人で食べるのだ。炊事兵の左手にはナン(インド料理に出てくる平べったいパン)が数枚入ったビニール袋が握られている。

「スプーンがあるけど、使うか?」
ラゼックが私に言った。普通、アフガン人は右手の指で食べる。私は言った。
「いや、いらない。僕も君たちの方法で食べたい。」

ラゼックは嬉しそうに微笑んだ。私はかっこよく言ったものの、心中では、腹痛になることを恐れていた。調理場の衛生状態がわからないし、どんな調理をしたのかも不明だ。しかも私は手を洗っていない。アフガニスタンでは手洗いをしないと高い確率で下痢になる。これはピンチだ。

炊事兵が私にナンを1枚差し出し、「ナン、ナン」と言った。
あきらめて食べろ、と自分に言い聞かせた。今さら「食べない」なんて言えないし、命を落とすほどの下痢にはならないだろう。危険を冒してでも、アフガン兵と友好関係を築くことのほうが有意義だ。私は現地密着型なんだ!それに、皿の料理はいい匂いを放っていて食欲をそそる。

私は笑顔を見せながら、ナンを受け取り、言った。
「食べ方を教えてくれないか。」
ラゼックと炊事兵が右手の指を器用に使って肉スープで味のついたご飯をすくって食べ、ラゼックが説明した。

「こうやって指を使ってもいいし、ナンに挟んで食べてもいい。」
ラゼックはナンを5cmくらいちぎりとり、それでご飯をつまみ、口に運んだ。そのやりかたのほうが、指が汚れなくていい。マネをしよう。

私は、まず、迷彩ジャケットの腹の部分をつまむようにして、右手の指を生地とこすり合わせ、指の汚れを可能な限り落とした。そして、ラゼックの実演のように、ちぎったナンでご飯をつまみ、食べた。ジャガイモが入っているからなのか、肉ジャガのような味がした。とてもいける!

ひとりじめにしたいくらいの美味だと思ったが、私は2人の食べるペースを計り、それより緩やかなペースで料理に手を出した。彼らよりも多く食べるべきではない。招かれている者として、謙虚に振る舞うべきだ。

「みんなで同じ皿の料理を共有するのがアフガニスタンの伝統的な食べ方だ。」
ラゼックが言った。
私はラゼックと、食べながら会話を続けた。ラゼックはその内容を炊事兵に通訳した。

私はラゼックに聞いてみた。
「君はどこで英語を勉強したの?」
「パキスタンだ。コーラン(イスラム経典)の学校に行ってたとき、英語も学んだ。パキスタンへは、かつてタリバンが政権を取ったあと、亡命したんだ。まだ子供だった。5年前にアフガニスタンに戻ってきて、陸軍に入ったんだ。」

ラゼックが政治状況に大きく人生をふりまわされたとわかり、気の毒だと思った。ラゼックが続ける。
「アメリカは、タリバンをひとまとめに敵というが、良いタリバンと悪いタリバンがいる。良いタリバンは真剣なコーラン学生。悪いタリバンはこの国で戦争してる奴ら。外国からも来てる。」

確かに「タリバン」とは「学生」という意味であることは、書籍で読んだことがある。アフガン人から直接聞くと、書籍を著した専門家の解説よりも重みがある。





つづく

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Posted by 野田力  at 07:00 │Comments(2)アフガニスタン

この記事へのコメント
文化のちがう者同士が笑いながら食事をする。
多分なにより重要なことに思います。
お腹がいたくなるかもと思いつつ頑張ったあなたに敬服します。
戦闘シーンもいいのですが、こういった
記事もまたお願いします。
Posted by JTGCチーフ at 2012年10月09日 09:37
JTGCチーフさん
コメントありがとうございます。
アフガン兵たちとの交流は私にとって宝のような思い出です。
恥ずかしがらずに話しかけてみれば、仲良くしてくれました。そのことは、アフガン兵に限らず、民間人も同じでした。
アフガン人には「もてなし」の心があります。
Posted by 野田力野田力 at 2012年10月09日 18:36
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