2012年08月20日

VAB出動準備

FOBトラの2日目、「明日、ちょっとした任務に出るから、装甲車を出動できる状態にしておけ」と命令を受けた。自分が運転を担当する装甲車「VAB」を受理した。「VAB SAN(ヴァブ・サン)」と呼ばれる医療用仕様で、後部内側には、救急車にあるような救命設備が備わっている。

酸素ボンベ、AED、火傷対策パック、外傷対策パック、薬品類など。担架も1つある。その担架は米軍が採用しているモデルなのだが、VABに配備されたとき、すでに中古品だった。ある下士官によると、米軍は一度負傷者を搬送した担架を廃棄するという。それらを仏軍が回収してきて、実戦に再配備しているそうだ。

VABの外側、車体の左面には、バスチョン・ウォール用の金網を切り出して、グニャリと曲げてこしらえたカゴが設置されており、折り畳んで横幅を縮めた担架が4つ、水平に収納されている。カゴは、前にいた医療班が作製してくれたのだろう。ありがたい。走行中の揺れで、落ちないように、数本のフック付きエラスティック・コードで担架を押さえてある。

医療班の車両であることを隠すため、車体に赤十字マークは描かれていないが、4つも担架が見えていると、誰にでも一目瞭然だ。敵にとって優先的な標的になる。車体全体に偽装ネットを張り、担架を見えないようにしたいが、今日は時間がない。

助手席の真上の砲塔に備えられた機関銃も、我々が医療班であることを暗示している。VAB SAN以外のVABには、車両整備班のVABも含め、12.7mm口径のブローニングM2(米軍でいうキャリバー50)が設置されているが、我々の機関銃は7.62mmのAANF1だった。

ジュネーブ協定か何かで、「医療隊員は自衛のための武器しか携行してはいけない」と決まっているからだという。仕方ない。AANF1はM2よりも、火力で劣るが、分解結合が簡単だし、手入れが速くできるからいいじゃないか。ここはポジティブに考えよう。

太陽がまぶしく暑い中、同じ班の衛生兵、アルジェリア人のミッサニ伍長とともに、班員4名分のラッション(携帯糧食)を3日分と、6本1組の1.5Lペットボトルのミネラルウォーター10組を、VABに積み込んだ。日差しが非常に強く、サングラスを持参しなかったことを後悔しながらも、我々はVABの準備を整えた。

ミッサニ伍長は私より3年ほど遅く入隊した。アルジェリアで獣医の勉強もしていたので、衛生兵という役職は彼にふさわしいと思う。そして何よりも私が気に入っているのは、彼の正義感や倫理観だ。命を大切に思い、他者を敬う。罵声を発したり、ものを盗んだりしない。医療倫理の教科書に紹介されそうな人間だ。

彼は健全な精神だけでなく、健全な肉体も持ち合わせている。身長は180㎝ほどあり、ベトナムの古流武術で鍛えたという筋肉は、ジャン-クロード・ヴァン・ダムを彷彿とさせる。顔もハンサムで、私はこんな完璧な人間とかかわると、いつもなら嫉妬により、気分が悪くなるのだが、ミッサニに対しては、そうならなかった。それくらい好感の持てる仲間だ。

VAB出動準備VAB出動準備←VAB SANと運転手である著者
VAB出動準備←VAB SAN後部内側
VAB出動準備VAB出動準備
VAB出動準備←後部に装備されている医療品用シートバッグ
VAB出動準備←シートバッグを開き、後部扉に掛けた状態。ちょっとした診療所のようになる。
VAB出動準備VAB出動準備
VAB出動準備←VABから遠くを見張るミッサニ伍長

つづく







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Posted by 野田力  at 07:00 │Comments(0)アフガニスタン

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