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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年12月31日

危険任務直前

はじめに

2013年1月19日より、「アルマジロ」という映画が公開されます。アフガニスタンのデンマーク軍を描いた作品なのですが、欧米では2010年に公開されており、私自身、除隊の少し前に観ました。

自分たちのアフガン任務の映像かと思うくらい、リアルでした。実際、この映画は物語化されたドキュメンタリーで、映像は本物だそうです。

この映画は戦争のイメージトレーニングになるくらい、ナマの戦場を描写しています。

「アルマジロ」、お勧めです。

――――――――――

本格的な任務に出ることが決まった。小隊でブリーフィングがあり、ADU(最先任下士官)のウィルソン上級曹長が中隊の任務を説明した。

それによると、COPフォンチーの北側にある敵の潜む村に、装甲車で敢えて近づき、敵がどう反応するのかをみるという。村の東側に広がる荒野を北上し、東から村へと接近する。

近づくだけで、特に何かをやるわけでもなく、ただ反応をみるだけだ。攻撃を受けるかもしれないし、無反応かもしれない。攻撃されれば、こちらも攻撃していい。少なくとも、この村には約20名の敵がドローン(無人偵察機)により確認されている。

ADUは、小隊事務室の壁に貼られている地図上を指さし、微笑みながら言った。
「ここよりも北へ行けば興味深いことになるだろう。」

つまり、攻撃を受けることになるだろうということだ。ADUは続ける。
「作戦地域には民間人も多く住んでいる。民間人を撃ってはいかん。発砲するときは、やみくもに撃つな。標的の位置が不明なら撃つな。撃つときは、弾がどこへ飛んでいくか把握しながら撃て。」

確実に命中させられる場合のみ撃ってよい、という意味ではない。民間人や友軍を撃たないように注意しろ、ということだ。例えば、遮蔽物などに隠れている敵が、少し体を出してAK小銃などで攻撃してこないように、遮蔽物周辺に連射を加えるという牽制射撃は必要だ。

いっぽう、牽制や威嚇の意味も含まずに、ただむやみに撃ちまくると、民間人を撃ってしまう可能性が高まる。それは上層部、特に政治家たちがもっとも望まない事態だ。ある同僚によると、第4小隊の小隊長は小隊集合時にこう言った。

「民間人に犠牲者が出たら、われわれの負けだ。」

ブリーフィングの後、ベッドの上で物思いにふけった。ついに危険の伴う戦争らしい任務に行ける。どんな展開になるのだろうか?本当に戦闘は起きるだろうか?負傷者は出るのか?戦死者は?

自分が戦死した場合について考えた。やはり死については考えてしまう。自分が死んだら家族や親友たちにどんな影響を及ぼすのだろうか?

今まで生きてきたなかで、家族・親友とはいい思い出がたくさんある。いろいろと感謝もしている。2度と会えないのは嫌だ。これからも何度だって会いたい。

子供を作らずに死ぬのは嫌だとも思った。やはり子孫は残したい。子供さえいれば、死んでもいいと思えるかもしれない。現実にはまだ嫁さんすらいないが・・・。

しかし、少し考えたら、夫を亡くす妻や、父のいない子を残すのはよくないと思い、どうせ死ぬなら妻子のいない現状のまま死んだほうがいいと結論づけた。

そして、最終的には、子孫を残すとか、親友や家族のことは、戦闘に臨むにあたって、いっさい考えてはいけないと結論づけた。そういうことを考えてしまうと、必要以上に生きることへの執着心が生まれ、恐怖に包まれてしまう。死ぬと決まったわけではない。

恐怖を感じたのは事実だが、どうしても戦闘任務に参加したいと思ったのも事実だ。私は医療班として参加するのだが、戦闘班として参加してもいい。正直、敵を撃ちたいと思う。そのための訓練も積んできた。敵をたおすことを考えると少し興奮した。しかし任務はゲームではない。人命がかかっている。

今回の任務を前にして、恐怖と興奮が私のなかで共存していた。これらが大きすぎると、任務に悪影響が出るだろう。

恐怖に包まれれば、思考力がじゅうぶんに働かなくなり、体がうまく動かなくなる。もしそんな状況で負傷者を前にし、的確な判断ができなかったり、手が震えたりすれば、そいつは死ぬかもしれない。

一方、極度の興奮状態に陥ると、「殺す気」がはやり、急に民間人が現れたとき、ついつい撃ってしまうかもしれない。別の可能性としては、敵が撃ってきているのに、遮蔽物を無視して、乱射しながら突撃していくかもしれない。アクション映画のようにうまくいけばいいが、私は無謀なことだと思う。

ただし、恐怖も興奮も、適度に持ち合わせれば、心理的に有効だろう。少しの恐怖があれば無謀なことをせずに生き残る可能性が高まるし、少しの興奮があれば、危険な状況下、勇気をふりしぼり、必要な行動を起こすことができる。

つまり、恐怖と興奮の調節が必要だ。私にとって、最良の方法は、「とにかく仕事をやってしまおう」と自分に言い聞かせることだ。親友や家族に会いたいとか、敵を自分の手でたおしたいとか、あれこれ願望など考えずに、ひたすら自分のやるべきことだけに集中し、実行すればいい。

そうすれば、必要最低限の恐怖と興奮に抑えることができ、ハイテンションになり余計な危険を冒したり、怯えて逃げだすこともないだろう。それでも失敗したならば、「ちゃんとやっても駄目だったんだ」と内心あきらめる。

とにかく自分の仕事をやろう。


つづく

今回は本文に関連のある写真がないため、デンマークに行ったときの写真を載せます。
←アフガン帰還記念パレード
←パレード解散



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Posted by 野田力  at 07:00Comments(6)アフガニスタン