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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年12月10日

米軍特殊部隊 衛生装備Part2

「バックパックは背負うのか?」
私が尋ねると、ジャックは床からタン色のバックパックを持ち上げ、言った。
「こいつを接続する。」

それは、おおよそ縦45㎝・横25㎝・厚さ10㎝の医療用バックパックだが、製造会社はわからなかった。私のメディカルパックより小さく、3分の1くらいの容量に見えるほどだ。

ジャックはアーマーの両肩後方部分に付いている「雌」バックルに、バックパックの「雄」バックルを差し込み、接続した。上部だけが接続されても、下部が固定されていないと、実際に着用して活動したら、バックパックがバタバタ揺れるはずだ。

よく見ると、幅2.5㎝ほどの細い、腰に巻くストラップが両サイドの下方から伸びていた。これを胴回りのポーチ類より下で巻き、暴れないようにできる。ぬかりない。

バックパックの両サイドには1つずつ、SOFTT止血帯が輪ゴムで固定されている。ジャックは、両手を下側から後方へ回し、背中中央にタッチしながら言った。
「こうやって止血帯をつかんで引っ張れば、ゴムがちぎれて、簡単に止血帯を手にすることができるんだ。」

ジャックはいろいろ教えてくれるから、ありがたい。ただし、私はこの止血帯携帯方法を採用しない。岩や木とバックパックが擦れたとき、落としてしまう可能性がある。特にゴムはアフガンの高気温で劣化が著しいのではないか。アーマーの前面に固定すれば、視野の範囲内なので、擦ることも少ないし、落ちても気づきやすい。

ジャックはバックパックのジッパーを開き、中身を見せてくれた。中はやはり、医療品が小分けできるように、いくつかのコンパートメントが設置してあった。クイッククロット、圧迫包帯、気管挿管キット、気道確保用具「エアウェイ」各種、医療用テープなどが収納されている。圧迫包帯は、仏軍が採用しているイスラエル製「エマージェンシー・バンデージ」だけでなく、新開発アメリカ製の「OLAESモジュラー・バンデージ」などのバリエーションがあった。

アメリカ軍は新製品を持ち、さすがだと思ったが、私が携行する医療品より大幅に量が少ない。そこで私は尋ねた。
「バックパックが小さいけど、携行できる医療品はこれで十分なのか?」
ジャックが自信のこもった声で言った。

「小さいからこそ、本当に必要な医療品を厳選することができるんだ。負傷のパターンはいくらでもあり、その対処に必要なものを考え始めたらキリがない。バックパックが大きいと、実際にはまったく使うことのない医療品まで入れてしまい、重くなってしまう。」

ジャックのこの説明には感心した。装備が重すぎると、移動するだけで疲れてしまい、戦闘になったときや、負傷者が発生したとき、十分に能力を発揮できなくなるのだ。そして、そのことで誰かが死ぬかもしれない。自分かもしれない。珍しいパターンの負傷が発生し、それに対応する医療品を携行してなかった場合は、「運が悪かった」とあきらめるしかない。

実際に私は、バックパック内のスペースが許す限り、できるだけ多くの医療品を詰め込む傾向にあるかもしれない。その重さが今まで問題にならなかったのは、フランス軍が米軍ほど物質的に豊かでなかったために、バックパックがいっぱいになるほどの医療品を支給できなかったからだろう。



「車両移動の場合は、これらも持って行くんだ。」
ジャックはそう言いながら、バックパック1つ、バッグ1つを床から担架に持ち上げた。バックパックはロンドンブリッジ社製の「1562A」というメディカルパックのタン色で、サイズは私のメディカルパックと同じくらいだ。中には多くの医療品が収納されていた。点滴各種、圧迫包帯各種など、私の携行する医療品とだいたい同じだったが、量が1.5倍くらいあり、バックパックはパンパンだった。



もう1つのバッグは緑色のショルダーバッグで、本体やサイドポーチのジッパーのプルタブに「Bass Pro Shop」というロゴと口の大きな魚のデザインが入っている。ブラックバスを釣る人たちを対象としたバッグだ。前面のジッパーが大きく「∩」型を描き、そこを開くと、中には引出しが4段あり、それぞれの段が1つの透明なプラスチック製ケースとなっていた。

「釣り具を入れるアイテムは、細かい医薬品なんかを収納するのに便利だから、購入したんだ。」
ジャックはそう言って、ケースを1つ取り出した。透明なので、中に入っている物がすぐわかる。本来ならばルアーを1つずつ入れる枠がいくつもあり、それぞれの枠に異なる種類の錠剤が収納されていた。

「本当に便利だし、バッグの色が緑だから軍で使うのにピッタリだろ。」
ジャックが言った。



確かに民間スポーツ用品を各国の軍隊で使用する例は多い。特殊部隊がマウンテンバイク用のヘルメットを使用したり、クライミングのチョーク入れの小型バッグを、使い終わった空の弾倉を投げ込むためのダンプ・ポーチにしたり。

民間のアウトドア装備のメーカーも、軍の消費者を狙って、オリーブドラブ色や迷彩などのカラーバリエーションを発売している。イギリスのバーグハウス社の「ヴァルカン」というバックパックのオリーブドラブ色は、我々の連隊やフランス軍特殊部隊に多くのユーザーを持つ。

ジャックはその後もいろいろと医療装備を紹介してくれた。私の知らない装備も数多くあり、ジャックとテッドが実演して見せてくれたりした。この部屋は必要とあれば、すぐに診療所として機能することが可能だ。しかも、成人だけでなく、子供用の医療品もある。

私は、兵士である屈強な男性に医療行為を施すことは何度もやってきたが、女性・子供・肥満の人が患者となったら、症状によっては戸惑ったり、失敗したりする可能性は高い。いっぽう米軍特殊部隊のコンバットメディックたちは、年齢・性別・体型に関係なく、あらゆる患者に対処することができる。さすがだ。

さらに、私が部屋の隅にある大きなダンボール箱にある大量の「クイッククロット・コンバットガーゼ」を見ながら、「フランス軍では衛生兵に1つしか、クイッククロットが支給されていないよ」と愚痴をこぼすと、ジャックはダンボール箱から3つつかみ、「持っていけよ」と言って、私にくれた。この瞬間、米軍には一生、感謝の念を持ち続けようと思った。

←クイッククロット

クイッククロットのことや、私1人のために、こんなに熱く医療装備を説明してくれたジャックとテッドに、感謝の意を込めて、「神風」と日の丸が描かれたハチマキを1つずつプレゼントした。京都・新京極の土産屋で、1つ200円くらいで買ったものだ。値段は安いが、「クールだ!」と言って喜んでもらえた。

するとジャックが「これをもらってくれ」と言って、星条旗パッチをくれた。ピンクの塗料が隅っこに少量付着しているが、そのほうが「世界に1つだけ」という感じがして、ありがたい。米軍特殊部隊からもらった星条旗パッチ。これは一生の宝だ。

やがて昼休みは終わり、ズボンのポケットにパッチを入れたまま、午後の仕事、つまり装甲車VABの整備や積荷の整理を始めた。米軍特殊部隊のオペレイティブと仲良くなれたことがうれしく、興奮が止まらない。時々、ポケットからパッチを取り出し、マジマジと見つめ、ニヤニヤした。



アフガニスタンは圧倒的に楽しい。
しかし、もうじき体が環境に適応する頃になると、次々と任務に出ることになる。気を引き締めよう。

←クイッククロットのほか、携帯糧食ももらった

つづく


  


Posted by 野田力  at 07:00Comments(8)アフガニスタン