2012年11月26日

米軍特殊部隊 衛生装備

翌日の昼休み、ジャックが提案してくれたとおり、医療装備を見せてもらうため、私は米軍特殊部隊のセクターへ行った。コンバットメディックのジャックとテッドに案内され、医療装備管理室と診察室を兼ねた部屋に通された。ジャックは青いワイシャツと「5.11」社のベージュ色ズボンを着用し、テッドは暑い真昼なのに、黄土色のフリースジャケットを着て、薄い青色のジーパンをはいている。2人とも右腰の革製ヒップホルスターにM9拳銃をさしている。

「ここが我々のメディカルルームだ。」
ジャックが言い、私は見まわした。
壁際には棚や箱類が設置され、医療品や医療バッグ各種が載せられたり、収納されている。大きな酸素ボンベが目立つ。部屋の中央あたりには、ノースアメリカンレスキュー社の「タロンⅡ」と呼ばれる頑丈な担架が2つ、平行に並べられている。土台に載せられ、ちょうど診察台くらいの高さだ。

入口から遠いほうの担架には、応急処置訓練用のマネキンが寝ている。青いジーパンと黒のTシャツを着ていて、野球チームのものと思われるロゴの刺繍されたキャップ帽もかぶっている。ジャックがそのキャップをすばやく取り、ニヤリとして言った。

「こいつはチャーリーだ。」

今までキャップがあったため見えていなかったが、チャーリーの頭の上部が取りはずせる仕組みだとわかった。はずした部分に外傷を模造したパーツをはめ込めば、頭部外傷の想定訓練が、よりリアルにできる。他の体の部分もはずし、いろいろな外傷パーツを設置できるようだ。

さらに、定番である心肺蘇生訓練もでき、マネキン内に設置されたチューブに空気を送りこむことで、脈拍も発生させることも可能だ。うめき声や悲鳴などの音声も出せる。

「こんなにいいマネキンをFOBまで持参していいの?!」
私が驚いた口調で尋ねたら、ジャックが答えた。
「いいよ。我々自身、時々練習する必要があるから。」

確かに定期的かつ頻繁に反復練習をやらないと、いろいろ忘れる。私もたくさんのことを忘れている。例えば、衛生兵教育で教わった、急な出産における、逆子の取り出し方法は今や曖昧だ。まあ、それに関しては、練習の手段がイメージトレーニングくらいしかないが・・・。

ジャックがさらに言う。
「それに、アフガン軍や警察を訓練するとき、応急処置もカリキュラムに入っているから、よく使うんだ。」
意外とチャーリーは大活躍のようだ。

担架の土台と壁際の棚とのあいだの床には、1着のアーマーといくつかの医療用バックパックが無造作に置かれていて気になった。整理整頓された置き方ではない。我々の中隊なら、ほとんどいつもイライラしている軍歴25年以上の古参兵が、住環境を見張り、整理が不十分だと怒りだすだろう。しかし、米軍特殊部隊のほうは完全に自己管理で、この独立感・自由感が「さすが特殊部隊だ」と思った。

「このアーマーはジャックの?テッドの?」
「ジャックのだ。俺のは自分の部屋に置いてある。」
私の質問にテッドが答えた。

ジャックはアーマーをつかみ上げると、チャーリーがいないほうの担架に、ドサっと置いた。イーグル社のプレートキャリアーのようだ。本体もポーチも、全体がタン色だ。

前面腹部に弾倉ポーチが3つ付いている。携行弾倉は6個だ。胸部には手榴弾ポーチ1個、M9拳銃の弾倉ポーチ1つ、「CAT」という止血帯、そして、救急救命用のハサミを付けている。背面からキャメルバックのチューブが伸びており、右胸のところで、「グリムロック」という小さなプラスチックのカラビナで固定されている。

アーマー左側には、無線機の入った専用ポーチとメディカルポーチが付いており、右側には小さな汎用ポーチが2つと、小さな赤いカラビナに、タン色のコンバット・グローブが引っ掛けられている。汎用ポーチには暗視装置や万能ツールなどの小物を収納する。メディカルポーチには、赤十字マークが大きく塗られている。

背面には、キャメルバック本体を収納している縦長の大型ポーチがあり、そのポーチの中央部には、横長の汎用ポーチが付けてあった。バックパックを背負うと背面が出っ張りそうだ。

米軍特殊部隊 衛生装備米軍特殊部隊 衛生装備

つづく







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Posted by 野田力  at 07:00 │Comments(8)アフガニスタン

この記事へのコメント
特殊部隊だけあって能力高い変わりに自由なんですね。
羨ましい(笑)

不躾な質問なんですがフランス軍ってアメリカの公務員みたく副業可能なんでしょうか?
自衛隊だと現実的に出来る副業なんて資産運用程度なので(..;)
Posted by たつ at 2012年12月01日 10:38
たつさん

副業が許可されているかは私にはわかりませんねぇ。副業に関する法律を知りません。
Posted by 野田力野田力 at 2012年12月01日 14:10
外人部隊に志願する日本人が最近途中で辞めることが
多いと言う記事を読みました。外人部隊を志願するような
人は体力もあるだろうし、日本人の頭がほかの国、人種の
人に劣っているとも思えません。
これは訓練より、言葉、人間関係がつらいと言うことでしょうか。野田さんの時はどうでしたか。わかる範囲で教えて
ください。
Posted by むらた at 2012年12月06日 20:28
むらたさん

あくまで私の意見ですが、日本人にとって最大の問題はフランス語だと思います。

外国人とのメンタリティーの違いも負担になるでしょう。日本人の常識は英米仏独西伊・北欧などの自由主義国の出身者たちにしか通用せず、他の多くの国々の出身者には常識を覆されます。

外人部隊の内容が期待外れで脱走する人も、日本人に限らず、います。外人部隊をSASのような部隊だと思い込んで志願する人もいますが、あくまで外人部隊は特殊部隊ではなく一般部隊です。

外人部隊を「特殊部隊」と紹介している書籍は間違いですね。
珍しい部隊ではありますが・・・。
Posted by 野田力野田力 at 2012年12月07日 10:34
野田さんは英語を相当勉強されたようですが、フランス語を
覚えるのは早かったですか?
フランス語を覚えるコツがあったら教えて下さい。
Posted by むらた at 2012年12月07日 18:29
むらたさん
英語は中学高校教育プラス自主学習程度ですが、フランス語には英語と同じ単語も結構あり、英語知識は役立ちました。
しかし、そうは言っても、完璧なフランス語は習得していません。
「通じればいいや」っていう程度の文法レベルです。

外国語を覚えるコツは、私は言語学者ではないのでわかりませんが、私のように不器用な人間は、時間をかけてコツコツやるしかないと思います。知らない単語を100回とか200回書いて覚えるとか・・・。

あと、間違いを恐れずに、同僚とフランス語で交流することです。フランス語圏出身者たちに混ざることができれば理想的です。
Posted by 野田力野田力 at 2012年12月08日 02:07
色々と教えていただきありがとうございます。
野田さんは第2で活躍するようなタフマンでありながら
文章を読んでいると人の心に配慮する繊細な所もあるので
看護の仕事は向いているかもしれませんね。老人の看護は
体力もいるようですし、これから求人数は増えるばかりで
良い選択かもしれませんね。
また質問すると思いますのでよろしくお願いいたします。
Posted by むらた at 2012年12月09日 01:01
むらたさん
私に答えられることで良ければ、またどうぞ。
Posted by 野田力野田力 at 2012年12月09日 21:32
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