2012年05月20日

FOB

はじめに
毎年、5月半ばに、フランス南西部のルルドという町で、「国際軍人巡礼」というイベントがあります。
今年の巡礼に、アフガンで脚を負傷した元同僚が行ってきたそうです。彼は今も松葉杖や車椅子を使用しています。神の力でも医学の力でも何でもいいので、早く自力で歩けるようになって欲しいです。
ルルドはカトリック教徒の聖地で、その巡礼には、バチカン市国から韓国まで、世界じゅうからカトリックを信仰する軍人がたくさん集まります。実は私も、一切宗教を信じていないにも係らず、2007年の巡礼に連隊から派遣され、いろんな国の兵士と話ができて嬉しかったです。

さて、アフガン記のつづきに移りましょう。
FOB(前方作戦基地)とはどんなところかについて、説明を続けたいと思います。
それでは、どうぞ。

――――――――――

我々は6ヵ月間住むことになる兵舎に案内された。到着前は、天幕の中、折り畳みベッドで寝る生活になると思っていたのだが、兵舎は1階建てのレンガ造りの長屋だった。ドアを引いて中に入ると、そのまま真ん中に1本の廊下が伸び、突き当たりには、小隊の会議や情報処理に利用される事務室兼倉庫がある。12畳くらいの部屋だ。

廊下の左右には、2人部屋が全部で10個並ぶ。1つの兵舎に20人収容できる。1部屋3畳くらいで、2段ベッドと高いロッカー2つ、パイプ椅子2つがあった。狭いので、所持品を効率良く収納しないと邪魔になる。

となりの部屋とは板でできた薄い壁のみで隔てられ、廊下との境には壁はなく、カーテンしかなかった。それでも我々にとっては豪華な宿泊施設に感じられた。一般人の感覚からすれば、プライバシーに問題ありと判断されるだろうが、我々は普段から集団生活だし、戦争に来てマットレス付きのベッドで眠れるなんて、贅沢だと思った。

私は、上り下りが楽なので、2段ベッドの下段が欲しかった。しかし、ルームメイトのブルガリア人ナチェフ上級伍長が下段に寝ることとなった。私の階級も上級伍長だったが、ナチェフの方が私より1年ほど早く入隊していたので、優先的に彼の希望が通る。私と同じ理由で、彼は下段を選んだ。

彼は穏やかな性格で、私と同じ165㎝くらいの身長なので、彼がルームメイトで私は嬉しかった。彼の役職は中隊長付きの通信兵だ。

こうして私は毎回、上のベッドによじ登る破目になった。ハシゴなど無かった。こういうとき、我々が練習してきた障害物コースの技術が発揮できる。

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トイレとシャワーは私の兵舎から10mくらいのところにあった。これもレンガ造りの長屋で、片側半分が洋式水洗トイレ、残り半分がシャワー/洗面所だ。数も多く、広くて快適である。水は無限では無かったが、無駄に流しっぱなしにしない限り、じゅうぶんあった。しかも湯がでる。

実は、フランス・コルシカ島の駐屯地で私が住んでいた建物のシャワーは、真冬に湯が出ることが稀だった。冬のシャワーを浴びる時は、冷水に耐えるため、雄叫びを上げることもあった。

世界的な評判で「REPは立派に戦う」とよく言われる。それは普段の生活より戦場の生活の方が楽だからだろう。訓練が苦しいのは当たり前で、生活も不便で厳しい。

「Train Hard, Fight Easy=訓練が厳しければ、実戦が楽になる」という諺があるが、REPの場合、「Live Hard, Fight Easy=生活が厳しければ、実戦が楽になる」という方が適切だ。


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つづく










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Posted by 野田力  at 07:00 │Comments(2)アフガニスタン

この記事へのコメント
どうもはじめまして。現職で陸上自衛官をしています。野田さんの、アフガンでの、体験談を興味深く読ませていただいております。
FOBの様子など、現地での任務についた人だけでないと分からない事だけに、大変、勉強になります。FOBの生活環境は、自衛隊の演習場の宿泊施設よりも整備されてますね。やはり、実際の戦場は過酷だけに宿泊施設は過ごしやすいように配慮されていると感じました。また、ベッドの上段、下段のエピソードの軍隊はどこも飯の数なんだなぁっと、変に共感してしまいました。
Posted by 久保 at 2012年05月29日 21:35
久保さん
はじめまして。コメントありがとうございます。当ブログが自衛官のかたのお役に立てて光栄です。
我々のいたFOBは非常に快適でした。私の仏軍生活の中で一番の生活環境でした。
イラクで自衛隊が駐屯していた場所の環境はどんなだったのでしょうか。そこそこ良かったのではないでしょうか。米軍がかかわる戦争ならば、食事提供や建設などで、民間業者が頑張ってくれますから。
Posted by 野田力野田力 at 2012年05月29日 22:57
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