2013年07月29日

戦傷者Part2

 私が合流するまでに起きた出来事は次のようなことだった。

 第1小隊、第4小隊がいっせいに北上を始めたあと、第4小隊も村のなかを進んでいた。やがてGCPが敵に発砲した少し後、いったん前進を止めた。このとき、2個分隊ほどが畑にいた。

 一辺が70mくらいの作物の育っていない畑で、北から南に向けて下がる3段の段々畑になっていた。そのもっとも低くなっている南端の段を遮蔽物にする形で、2個分隊の兵士たちは伏せ、北に面して横一列の隊形をつくっていた。

 畑の北側には大きなコンパウンドがあり、3つの出入り口が見えていた。3つとも扉がついておらず、中が見える。

 コンパウンドと畑の西側はザクロか何かの森になっていて、東側は通路になっている。通路を挟んだ先は別のコンパウンドがあった。

 畑の南側には、ところどころ崩れた、1.5mくらいの土塀があり、その南側に通路があり、その南側にまた別のコンパウンドがあった。

 このとき、少佐とミッサニは、第4小隊の副小隊長オラチオ上級軍曹と3人で畑の南側にある土塀とコンパウンドのあいだにいた。上級軍曹はまっすぐ立ち、畑の分隊を見わたし、ミッサニは土塀から分隊と同じ方角へFAMASを構え、少佐は壁の陰に座っていた。

 座っているだけの少佐を「臆病者」だとか「怠け者」だと思ってはいけない。彼は射撃訓練は受けているが、戦闘訓練はほとんど受けていない。彼がそこにいるのは、負傷者が発生したときのためだ。戦闘が起きて、彼が最初にやられてしまっては本末転倒なので、隠れていてくれるほうが都合がいい。

 そもそも軍医がこんな最前線まで来るというフランス軍のシステムは圧倒的だ。

 いっぽう、ミッサニや私のような衛生兵は戦闘中隊に所属し、戦闘訓練も受けていたので、戦う気も持っていた。負傷者が発生しないかぎり、我々は戦闘要員だ。

 そういうわけで、ミッサニは畑の北側にあるコンパウンドの一番右の出入り口を見張っていた。そのとき、出入り口の内側を、右から左に向かって、サッと黒服にAKを持った敵が横切った。

“パン!パン!”
ミッサニは即座に撃った。当たらなかった。

「コンタクト!コンタクト!(コンタクト=接敵)」
ミッサニだけでなく、分隊の兵士の多くが大声を出しあう。

「コンパウンドの中にいる!出入り口に注意しろ!」
ミッサニが叫んで皆に知らせる。

 この接敵にとき、敵の姿はミッサニにしか見えなかった。畑には2個分隊の兵士14名がいたのだが、段々畑の段差のせいで、敵を視認するには低すぎたのだ。ミッサニは土塀の後ろから立射に近い姿勢でいたので視認できた。

 コンパウンドに敵がいると判明した今、ほとんどの者が真ん中の出入り口に注目していた。予想通り、黒い影が素早く横ぎる。

“バババババン!パンパンパン!”

 皆、いっせいFAMASやMINIMIを発砲する。はずした。敵が現れて消えるまで一瞬なので、皆が反応して撃ち始めるときには、敵はもう見えない。再び静かになり、皆が一番左の出入り口に注目している。

 このとき、ミッサニの位置から1人の敵が、コンパウンド左側の壁を乗り越え、森のなかへ消えていくのが見えた。敵は知らないうちに3つ目の出入り口を通り越していた。

「森のなかに1人逃げたぞ!」
ミッサニが叫んだ。

 その情報が皆に届くが速いか、森のなかから7.62mm弾の連射が響いた。
“パパパパパパパパ・・・”

 兵士たちも応戦する。
“ババババババン!パンパンパンパン!”
森のなかへと5.56mm弾が何発も撃ち込まれる。

 敵もどんどん撃ってくる。ある兵士が弾倉交換のために、畑の段差に隠れたとき、自分の体に土の粉が降ってくるのに気づいた。どこから来るのか探すと、畑の南側にある土塀に敵弾が撃ち込まれ、固められた土を粉砕していたという。

 やがて静かになった。

 このとき、1人の兵士が3~4mとなりで伏射姿勢をとる兵士が、銃を構えたまま、顔面を地面にふせていることに気づいた。

「おい!起きろ!」
反応はない。

「おい、起きろと言うのに!」
やはり無反応だ。状況がやっと読めた兵士は叫んだ。

「ブレッセ!ブレッセ!(負傷者!負傷者!)」

 となりの兵士は寝ているのではなく、被弾したのだ。

 負傷者を知らせる大声を聞いた少佐とミッサニは「どこだ?!」と叫んだが、銃声で耳がキーンとなっている分隊の兵士たちには聞こえなかった。

 撃たれた兵士のそばに、近くの兵士2人が転がりこんだ。そのことで、少佐とミッサニは自分たちが行くべき場所を悟り、土塀が崩れて低くなったところを乗り越え、走りだした。




つづく  


Posted by 野田力  at 21:11Comments(0)アフガニスタン

2013年07月22日

戦傷者Part1

デルトロ軍曹は、ヘッドセットに何か連絡が入ると、私に言った。
「第4小隊のほうで負傷者が出た。衛生班の増援が要請されてる。ノダ、出番だ。行くぞ。」
「どんなケガですか?」

「わからん。とにかく行くぞ。」
 無線の連絡内容と地図から、2つの小隊の位置関係を把握している軍曹は6名の戦闘員と私を率いて走りだした。

 どんな負傷だろうか?腕か脚を撃たれたのだろうか?第4小隊には軍医プルキエ少佐と衛生兵ミッサニ伍長が派遣され、一緒に行動している。すでに何か処置を始めているだろう。しかし、その2人では人手が足りないなんて、重傷に違いない。

 そう考えながら、もと来た道を走って少し戻った後、深緑の麦畑をガサガサと抜け、幅2mほどの通路に、土塀が崩れた部分を通り、真横から入った。入るとすぐ左手に、第4小隊の副小隊長であるチリ人のオラチオ上級軍曹がいた。

「ノダ、軍医を手伝え。」
 上級軍曹は落ち着いた声で言うと、上半身をひねり、20mくらい後方を指さした。

 曹長の口調があまりに静かだったので、軽傷なのかと思ったが、曹長の指の先には、ひざまずいて両手を忙しく動かしているプルキエ少佐とミッサニ伍長の姿があった。不思議なことに、想定演習をしているような感覚を私は感じた。

 2人の間には、1人の白人兵士が頭部をこっちに向けた状態で、仰向けに横たわっていた。すでにヘルメットもアーマーも脱がされ、仏軍迷彩服だけを着ていた。どんな傷なんだろう?近づかないと見えない。誰なのかすら、ここからはわからない。

 デルトロ軍曹は、新たな命令を受けたらしく、負傷者がいるのとは逆の方向に通路を走り出した。私はここに残らないといけない。
「軍曹!軍曹!」

私はダッシュして軍曹に追いついた。そして伝える。
「私はここに残って軍医を補佐します。いいですね、軍曹!」
「もちろんだ。行け。」

班から私が離脱することを確認した軍曹は、そのまま6人の戦闘員を率いて駆けだした。
 私は少佐たちのところへ急いだ。着ているアーマーやバックパックの重さは気にならなかった。負傷者の苦しみに比べれば大したことはない。彼を助けなければ・・・。

「少佐殿、今行きます!!」
私に気付いたプルキエ少佐が叫び返した。
「気管切開キットをくれ!」

 私は20mほど先にいるプルキエ少佐とミッサニ伍長、そして負傷者のもとへ走りながら、A3メディカルパックの右肩側のショルダーストラップを、右腕をくぐらせ、はずした。それにつづいて、首から掛けているFAMASのストラップに右腕をくぐらせ、FAMASを背中側に回した。

 仰向けの負傷者の左側にプルキエ少佐が、右側にミッサニ伍長がひざまずいている。負傷者の足の方向3~4mのところには、第4小隊の戦闘要員が2人立っていて、不安そうな顔で治療を見守っている。ここまで負傷者を運ぶのに携わったのだろう。

 ミッサニが立ちあがり、私に向かって走りはじめる。私は走るのをやめ、地面にメディカルパックを置き、ひざまずいて、ジッパーを開けた。ミッサニが私のところに到達するのと同時くらいに気管切開キットを取り出し、ミッサニに手渡した。ミッサニは負傷者のもとへ戻り、少佐にキットを手渡した。

 私はメディカルパックのジッパーを閉めることはせず、ただ中身がこぼれないように持ち、治療現場に近づいた。

「何が起きたんですか?」
私が聞くと、気管切開キットを軍医に渡したばかりのミッサニが答えた。
「頭を撃たれました。」

負傷者の顔を見る。
 両方のまぶたが大きくはれあがり、紫色に変色している。最終ラウンドのボクサーのようだ。首をゆっくりと左右にふり、肘をゆっくりと曲げたり伸ばしたりしている。さらに、息を吐くのに合わせ、鼻の穴、口、喉に開けられた小さな穴から、ブクブクと血が小さく泡立っている。彼の本能が苦しみから逃れたいと感じているように思えた。

 左まゆ毛中央の1㎝ほど上に、2針縫合されたばかりの長さ1㎝くらいの傷がある。敵の7.62mm弾がここに撃ち込まれたのだ。額に射入口があるということは、後頭部に射出口があるだろう。だが、わざわざ確認する余裕はない。気管切開キットを少佐にわたさなければならない。

 しかし、なぜ私の気管切開キットが必要なのか?ミッサニか少佐のどちらかが1つ携行していたはずだ。いったい何があったのか?


  


Posted by 野田力  at 07:00Comments(2)アフガニスタン