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Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年02月18日

新COP建設Part2

 銃撃戦がやみ、ミラン班を指揮する軍曹が無線で中隊長に言った。
「敵グループの潜むコンパウンドを視認。ミサイル発射の許可をください。」

中隊長が言う。
「敵が武器を持っているのが視認できるか?」
「ネガティフ(いいえ)。」

「撃つな。」
 敵が数名、そのコンパウンドに隠れているのは確実なのだが、武器までは見えないのだ。敵が武器を持って入るのが視認されたとしても、ミサイルを発射する時点で、武器の有無が確認できなければ、発射許可がおりないようだ。

 もしかしたら敵はすでに銃をどこかに隠し、今は非武装かもしれない。そうなると、民間人と区別がつかない。別の言いかたをすれば、非武装なら民間人と見なさなければならない。この原則を無視すれば、民間人誤射を招き、タガブ谷の住民たちを敵に回してしまうかもしれない。非常に難しいところだ。

 少しして、ふたたびミラン班の軍曹が無線で言った。
「敵の武器を視認。発射許可をください。」

 よし!今度こそ撃て!私は心のなかでそう叫んだが、中隊長は慎重だった。
「周囲に一般人はいないか?」

中隊長の質問に、ミラン班ではなく、35RAPの観測班が答えた。
「3人の子供が見える。」
「撃つな。」 

 またしても撃つことができない。しかし当然だ。子供を巻き添えにすることは絶対にできない。敵はそういう事情を知ったうえで、子供たちをコンパウンドの周辺に立たせているにちがいない。そうでなければ、村人は老若男女、戦闘中に屋外にいるはずがない。「人間の盾」だ。

 無線を聞いて私がくやしがっていると、上空に米空軍のF15が現れた。まさか空爆はしないだろう。私は実のところ、航空機の火力についてよく知らないが、この村みたいに家屋が集中している環境で、空から投下するような爆弾は威力があり過ぎるのではないかと思う。民間人が巻き添えになってしまう。

 やがて、F15は300mほど上空を、谷の西から東へと飛行した。そして村の上空にさしかかったとき、“ポポポ・・・”とフレアを何発か発射した。明るい火の玉が白い煙の尾をひいて降下し、やがて空中で消滅した。
フレアに殺傷力はないが、敵は恐怖を感じたはずだ。
 
ミラン班から無線が入る。
「コンパウンド周辺から子供たちが立ち去りました。発射許可をください。」

子供たちもフレアに驚いたようで、うまい具合にコンパウンドの敵は「人間の盾」を失った。さて、中隊長はなんと言う?

 しばらく間があいたあと、中隊長の指示が無線から聞こえた。
「発射を許可する。」

 ついに中隊長がミランミサイルの発射を許可した。村の端から約1km離れた地点から、ミラン射手はコンパウンドに狙いを定める。ミランの有効射程距離は500~1800mだ。地面に伏せて撃つのか、VABの上から撃つのか、私からは見えない

 この瞬間のために、彼は苦しい訓練に耐えてきた。ミラン班の仲間たちと、重いミサイルや発射機をかついで山野を駆け巡った演習もこの瞬間のためだった。ついに実戦で成果を発揮するときがきた。

 射手は発射ボタンを押した。
“シュルシュルシュル・・・。”

 ミサイルが標的めがけて飛び出す。100mくらい飛ぶと、突然ミサイルが地面に落ちた。爆発はしない。無線でミラン落下が報告される。「よりによってこんなときに!」といらだちを覚えた。

 射手たちの現場には「なぜ落ちたか」を考えている暇はない。失敗したなら再度挑戦するだけだ。装填手が次のミランを発射機に設置する。射手は発射ボタンを押した。
“シュルシュルシュル・・・。”

 2発目は100m地点に落ちているミランを越えて飛びつづける。その調子でこのままコンパウンドに命中しろ!150m・・・180m・・・200m。落下!200mくらい飛んだが、また落ちた。あっけない・・・。

 落下の報告が無線で流れたとき、中隊全体で落胆の声があがっただろう。VABの助手席に座る軍医までもが「ちくしょー」と漏らした。

 私は実弾射撃訓練において、ミランとは別の「ERYX(エリックス)」という、射程が50~600mの対戦車ミサイルを撃ったことがあるが、私の前後に撃った射手たちの何人かにミサイルの不調による落下や不発が起きた。そのため、今回のミラン落下もミサイルが不良品なのではないかと私は思った。しかし、射手の技能を疑いだす者もいたことだろう。

 ミラン班は発射機に問題がある可能性を考慮し、発射機を替え3発目を設置した。射手は交替しない。三度目の正直だ。

つづく

←フランスの演習場にて、エリックス発射器を持つ著者とミサイルを持つ後輩
←実弾射撃訓練のまえに記念撮影する射手たち


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Posted by 野田力  at 07:00Comments(6)アフガニスタン