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Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年01月14日

潜入Part2

エンジンを切ったら、とても静かになった。我々の前にいるADUのVABもエンジンを切っている。となりの助手席を見たが、プルキエ少佐は座席の上に立ち、上半身を回転式砲塔に出しているため、顔は見えない。
車窓から左側を見ると、道路のすぐ向こうには丘があった。あの丘のからは敵の潜む村が見えるはずだ。つまりこの坂を登りきれば、その村が見えてくるだろう。

車列の前方にいた戦闘中隊のVABや中隊長班のVABは、きっと村に対して横一列の車両編隊を組み、車間距離を50mくらいとり、だだっ広い荒野を進む準備を整えているのだろう。

そして、長距離の火力支援や観測を行なう班は、村とは反対方向へ進み、山を少し登り、村を見渡せる地点に向かっているのだろう。対戦車ミサイル「ミラン」を扱うミラン班、「PGMエカットⅡ」という12.7mm口径の狙撃銃を使用するTE(Tireur d’Elite=精鋭射手)班、そして35RAP(第35砲兵パラシュート連隊)の観測班がそれだ。

やがて明るくなった。暗視装置をヘルメットから外し、クッション代わりのネックウォーマーに包んでポーチにしまった。上り坂の我々の前方には、ADUのVABがあり、その前には2台のVABが見える。17RGP(第17工兵パラシュート連隊)所属の工兵小隊のVABだ。それより先は坂を登りきった地点より向こう側なので見えない。

「クリーク、ガーネット、予定通りの配置につけ。」
無線から中隊長の命令が聞こえた。「クリーク」はADU、「ガーネット」は工兵小隊のコールサインだ。この場合、我々医療班と車両整備班のVABはADUのVABについて行く。私はVABのエンジンをかけた。
「クリーク、ルスュ(クリーク、了解)。」
「ガーネット、ルスュ(ガーネット、了解)。」

ADUと工兵小隊の小隊長が無線で応答し、前方に見える工兵車列とADUのVABが前進を始めた。私はそれにつづいた。サイドミラーに目をやると、後方にいる車両整備班のVABが発車したのが見える。

こうやって後方を確認することは絶対に忘れてはいけない。特に一旦停止したあとに、再び前進するときはなおさらだ。もし、運転手も助手席の者も睡魔にやられるなどして、前進する車列について来なかったら、部隊が離ればなれになってしまう。

VABの後部のハッチから周囲を警戒する兵士がいたりするので、そのような事態は起こりにくいが、1度、フランス南部の演習で起きたことがある。疲れがピークとなる演習最後の夜中、一旦停止したあと、最後尾のVABの乗員が眠りに落ちてしまい、1台だけ置き去りにされてしまった。あのときは私も運転手を務めていたが、私自身もときどき居眠り運転をしてしまった。

今はまだ任務開始から間もないので、疲れておらず、その心配はなかった。そのまま我々は進み、坂を登りきった。広い荒野が目の前に広がる。その景色をじっくり眺めたかったが、すぐに下り坂となった。

坂を下ると、先ほど見えた広い荒野より低い場所に来た。再び道路は登り坂になっているが、工兵小隊の車列は右方向へと道路から外れた。ADU、我々、車両整備班のVABもそれにつづく。

周辺より少し低くなった地形の場所を我々は進んだ。ここはワディ(涸れ谷)だろう。やがて工兵小隊のVAB 4台が半円形の編隊を成して停車した。我々3台は彼らの反対方向に向かって半円形の編隊を成し、全体で円形の360度警戒の拠点が完成した。

「クリーク、配置についた。」
「ガーネット、配置についた。」
それらの無線報告に中隊長が答える。
「了解。全隊、グリーンゾーンに対し引きつづき警戒せよ。」

「グリーンゾーン」とは、イラクのグリーンゾーンのように、国際部隊が統制する安全地帯のことではない。アフガニスタンにおいては、それとは真逆に、危険地帯のことをいう。肥沃な農村地帯で緑が多いことから、そういう名称がつけられたらしいが、ここではほとんど緑は見られず、枯れた木々や、乾いた荒野しか見えない。

我々はグリーンゾーンを眺めることのできないワディで待機だ。医療班は負傷者が発生するのを待つ。正直、つまらない。戦闘小隊みたいに最前線に立ちたいと思った。しかたがない。これが私の役割だ。

その頃、戦闘小隊と中隊長、副中隊長のVABはグリーンゾーンに面して横一列となっていた。村の端の家々から800mほどの位置にいたらしい。

ミラン班、TE班、観測班はもう少し後方の小高くなった位置に陣取り、村を監視していた。ミランやPGM狙撃銃の射程を考えると、2kmを越えて離れることはないが、私には正確な位置を知るすべがない。

我々はエンジンを切り、待機した。これからどんどん陽が昇り、暑くなっていく。

何も起きないまま、時間だけが過ぎていく。30分・・・1時間・・・。上空からは、「パタパタパタ・・・」や「ブゥゥゥゥゥン」という音が聞こえてくる。米軍ヘリ「カイオワ」と仏軍のドローン(無人偵察機)だ。ドローンは、音はするが、機体を見つけることができなかった。

カイオワやドローンの音を聞きながら、じっと待った。結局何も起きないのだろうか?まあ、そういうこともある。グリーンゾーンにもっと近づかないのか?RPGでやられる。




←ミラン
←PGM

つづく



  


Posted by 野田力  at 07:00Comments(10)アフガニスタン