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Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年01月07日

潜入

任務当日、まだまだ暗い午前2時半に起床し、3時に装甲車の車列が編成された。我々第3中隊全体、1個工兵小隊など、20台くらいの長い車列だ。

我々医療班のVABは、ADU(最先任下士官の上級曹長)のVABの後ろで、我々の後ろには車両整備班のVABが並ぶ。これらの3台は常にこの順番で車列のなかに組み込まれる。全体の車列のなかでは、後ろのほうだ。

4時半、まだ明るくなる気配すらないなか、車列はFOBトラを出発した。ヘルメットに固定されたアダプターには暗視装置OB70が取りつけてある。ただし、両目の前ではなく、上に向けてアダプターを半回転させ、前頭部のあたりに保持されている。まだ暗視する必要がないのだ。使用するときがくれば、下に向けてアダプターを半回転させる。そうすれば暗視装置は両目の前にちょうど来る。

我々は道路交通法を守り、ライトを点灯して走行した。角を曲がるときは方向指示器を点滅させる。目的地までは幹線道路を通るので、一般車両も走っている。無灯火で走行すると危険だ。意外に多くの一般車両が走っている。朝早い通勤だろうか?トラックは運輸業だろう。

アフガンの運転手たちは、対向車がいるというのに、ヘッドライトをハイビームのままにしている。1台や2台ではない。ほとんどの車がそうだった。まぶしくて困る。路肩を視野の中心に捉えながら運転した。

他にも、カーブでじゅうぶん減速せずに対向車線に進入してくることなどが度々見うけられ、アフガン人の運転は乱暴だとわかった。ここでの運転には、フランスや日本で運転するとき以上に注意しなければならない。

ライトをつけて運転すること約1時間。敵のいる村から我々のライトが視認できるであろう地点の少し手前に到達した。このあたりは町の中心部から遠いので、一般車両が走っていない。無線から中隊長の命令が聞こえる。
「全車両、止まれ。消灯し、IR(赤外線)を使用せよ。」

我々は車間距離を約20mとって停車し、ライトを消した。星だけしか光源がなく、とても暗い。暗視装置を両目の前に下ろした。視野は狭まるが、緑色のかかった白黒映像のような光景が見える。前方の装甲車や遠くの山肌などが浮かび上がる。

VAB車体の左前にあるIRライトのスイッチを入れた。すぐ前の地面や前方の装甲車が鮮明に映るようになった。肉眼では暗闇にしか見えない。暗視装置はすばらしい発明だと思う。しかも手のひらに載るサイズだ。

「全車両、出発。」
中隊長が無線で言った。少しして我々の前にいるADUの装甲車がゆっくりと進みだした。それに続くように私はハンドブレーキを解除し、アクセルを踏む。いよいよ潜入だ。

まだ暗いなか、IR映像を見ながら道路を進んで行く。あと30分くらいで明るくなるだろう。道路はしっかりと舗装されているが、その周りは荒野や山だ。ところどころに村がある。

さらに進むと、道路沿いに小さな集落があった。土や石でできた家屋が5軒ほどある。暗視装置を通して家々の周りに目を凝らすが、人影はなく、犬すらいない。私はすぐさま前方に視線を戻した。

集落を過ぎ、下り坂になった。下るとすぐに上り坂になったが、坂の途中で車列が速度を落とした。停車するのだろう。私は右路肩にVABを寄せた。道路中央に停車したら、追い越す車両や対向車が来たとき邪魔になる。

車列が停まった。なんの無線連絡もないまま、停車して5分くらい経ったが全然動きださない。エンジン音がうるさくて耳に不快なうえ、燃料を節約したかったのでエンジンを切った。

理想的には、停車時もエンジンはつけておいたほうがいい。突然、敵が襲撃してきた場合、すぐに発車できる。エンジンを切った状態だと、エンジンをかける段取りが必要となり、そのぶん遅くなる。運が悪ければ、エンジンがかからないというハプニングに見舞われるかもしれない。

普段から私はミッサニ伍長とともに、VABのメンテナンスを他車以上に実施していたので、エンジンがかからないはずはないだろう。万一、かからなかったら、車内から応戦しよう。VABを乗り捨てて離脱してもいい。

―――――

暗視装置で見る光景↓


←犬とハンドラー

←夜空をあおぐと肉眼で見えない星も見える。

←仏軍暗視装置OB70

つづく


  


Posted by 野田力  at 07:00Comments(7)アフガニスタン