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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年12月17日

兵士に不利な規定

アフガニスタンに来てから1ヶ月ほどが経った。これまで、COPフォンチーへは何度か行き、ルートは馴染み深いものとなった。首都カブールの国際部隊基地へ物資輸送のエスコートで1度行ったし、毛布を配布する人道支援任務にも行った。この1ヶ月、結果的に危険な任務は一切なかった。不謹慎だが、物足りなさを感じはじめた。

そんなとき、少し緊迫する事象がFOBで発生した。その事象に私自身は係っていないのだが、ブラジル人のデコ一等兵が夜明け頃にFOB警備のため、歩哨所から前方に広がる荒野を見張っていたときに発生した。

薄明るい中、100mほど先に1人のアフガン人がFOBを向いて、地面にしゃがみこんでいるのが見えた。FOBと現地社会を隔てる有刺鉄線の外側なので、法的には問題はない。しかしデコは、そのアフガン人が急にAK小銃を服から取り出し発砲するのではないかと懸念した。

デコは報告のため、無線で警備班詰所を呼び出す。応答がなかった。無線が故障したのか、交信ができない。持ち場を離れて、警備班長の軍曹のところまで伝えに行くわけにはいかない。さあ、どうするべきか。デコは考えた。

まずは、「デガージュ!デガージュ!(仏語:うせろ)」と大声を出して、アフガン人に立ち去らせようとした。片腕を大きく振るジェスチャーもつけ加えた。

アフガン人はピクリともしない。言葉やジェスチャーが通じなくても、武装している兵士が大声を出している場合、その場を離れたほうがいいことくらい、普通ならわかるはずだ。我々が簡単に発砲できないという規定を知っている敵がFOBを観察しているのかもしれない。もしくは、声が聞こえていなかっただけかもしれない。

デコはFAMASを1発だけ撃った。弾丸はアフガン人から離れた地面に当たった。ウォーニングショットだ。するとアフガン人はゆっくりと立ち去り、見えなくなった。一件落着したが、その後はデコにとって「一難去ってまた一難」だった。

銃声は他の歩哨たちを驚かせ、彼らは警備班詰所に無線連絡を入れた。詰所の軍曹は、ぐっすり寝ている基地の上層部を即座に起こすわけにはいかず、状況確認のため、各歩哨所に連絡を入れた。デコだけが応答しない。軍曹はデコのもとに班員を派遣し、確認させ、状況を知ることとなった。

敵襲ではなかった。FOB敷地のすぐ外側にアフガン人がいただけだったが、発砲したため、デコは軍曹に怒鳴られた。「基地の敷地内に入ってきていないなら撃つな。それが規定だ」と。さいわい、警備班を除く、FOBで生活する者は建物のなかにおり、ほとんどの者が睡眠中だったので、銃声は気づかれず、騒ぎにならなかった。

デコは後日、私とフランス人のムニエ一等兵に言った。
「ウォーニングショットが許されないなんて絶対におかしい!もしあのアフガン人がRPGを取り出して、僕に向けて発射してたら、僕は死んでたかもしれない。」

デコはさらに続ける。
「こんな規定、現場を知らない、エアコンの効いたオフィスのお偉いさんが決めてるから、実践的じゃない。」
いろんな映画や書籍によくある定番の台詞だ。
「ああ、マジでクソだ。」
ムニエが相槌をうつ。私は「難しいよな」と無難な反応にとどめた。

実は私はデコのやったことに賛成していない。我々兵士の仕事は、「オフィスのお偉いさん」の決めたこと、いわば「命令・規定」に従うことだ。その範囲で、自分たちが有利になるように工夫するのが、兵士という仕事の精一杯だ。

それに、「お偉いさんに現場の者が翻弄される」という構図は、大昔からある構図だ。今さらそれに不満を言うのはよそう。それが原因で戦死しても、それは仕方のないことだ。残念ではあるが、仕方のないことだ。私自身が戦死しても、私は「仕方ない」と思うだろう。

私はその見解をデコたちには伝えない。もし伝えたら、「じゃあ、つまらない規定のために僕らが死んでもいいのか」と思われてしまい、多くの同僚を敵に回すかもしれない。それに、実際に自分がデコの状況に陥ったわけではないので、敢えて強く主張するべきではないと思った。

そもそも「ウォーニングショット禁止」自体は、とんでもない規定だとは思わない。むやみに威嚇発砲された現地民が我々ISAF(国際治安支援部隊)に対して恨みを持てば、フランス政府をはじめ、派兵している国の政府にとっては不都合だ。だから「お偉いさん」たちは兵士に不利な規定を制定せざるを得なかったのだろう。

我々は、B級アクション映画の登場人物のように、好き勝手に武器を使うために派遣されてはいない。フランス政府の政策のために来ている。我々に有利か不利かは関係なく、政府が望むことをやり、望まないことはやらない。ただそれだけのことだ。

そんなふうに考えるのはダサいかもしれないが、私はそのように、乾いた目で見て、割り切って考えている。



つづく


  


Posted by 野田力  at 07:00Comments(4)アフガニスタン