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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年11月19日

米軍特殊部隊との交流Part2

ジャックは特殊部隊に入ったあと、1年間の衛生教育を受けたという。今でも時々、民間の救急病棟で働き、腕を磨いたり、最新技術を身につけたりする。外人部隊のほうでは、衛生兵教育はわずか3ヶ月で、その教育中に、救急隊や救急病棟での研修が少しあるくらいで、教育のあとに病院・救急隊に派遣されることはない。部隊内の診療所で働いたり、野外での事故に対処するくらいだ。米軍特殊部隊と外人部隊の衛生教育の差を見せつけられて、内心、少し落ちこんだ。

ジャックが言った。
「戦争において、医学や医療装備は大きく進化する。一般社会では法律に縛られ、できる医療行為に制限がある。それを越えたら、たとえ医者でも訴えられクビになる。しかし、戦時では、法を越えたことでも、実験的に思い切って試すことができる。もし上手くいったら、それ以降、標準医療行為に加えればいい。」

当たり前のことではあるが、米軍特殊部隊員が言うと感動する。アメリカ軍は実際に、フランス軍よりも大幅に進化しているし、装備も遥かに充実している。そんな米軍でも、ジャックによると、「2004年のイラクでは、特殊部隊においても、1人に1つの止血帯があるわけではなかった」という。

止血帯が足りないことで死傷者が発生したため、多く支給されるようになったのだ。しかも、より高い止血効果を持つ止血帯を開発し一儲けしようと、多くの会社が試作し、国防省に売り込んだ。その開発競争で勝ち残ったのが、CAT(キャット)とSOF-TT(ソフティー)だ。今や、SOF-TTのほうは、アフガンのフランス兵全員に1つ支給される。

「明日の昼休みにでも、また来いよ。医療装備を見せるから。」
ジャックがまた嬉しい提案をしてくれた。
「絶対来るよ。」

戦闘衛生関連の話が終わると、丸坊主で小太りのヴァーノンが聞いてきた。
「ノダ、君は日本語以外に英語とフランス語を話すのか?」
「まあ、完璧じゃないけど、英仏に住むのに困らないくらいなら話せる。君はフランス語を話すけど、軍で学んだの?」

私はヴァーノンに聞き返した。彼の仏語は完璧で、どうやったのか気になる。
「両親がフランスからの移民で、家ではフランス語を使ってたんだ。」
なるほど。環境を味方につけたか。ここぞとばかりに、私はジャックに聞いた。
「ジャックは何か外国語を話すの?」

私は「ダリ語だ」とか、「パシュトゥン語だ」という返答を期待した。アフガンの言語なので、それらが話せるとなると、いかにも特殊部隊という感じがする。ジャックが穏やかに答える。
「俺は英語しかできないよ。」

しまった。聞かなければよかった。ジャックの自尊心を傷つけたかもしれない。
「そうなのか。でも英語はほとんどの国で通じるからいいじゃないか。」
私は急いでフォローした。

幸いジャックは気を悪くした様子はなく、サランラップに包まれた5枚のクッキーをくれた。その場で1枚食べた。売り物にならない形だが、味は美味しかった。
「嫁が送ってきたんだ。」

今度はジャックが私のなけなしの自尊心を傷つける番だ。ジャックは特殊部隊に所属し、アフガンで実戦に参加し、しかも愛妻がいる。私は特殊部隊どころか、職業軍人ですらない。契約だ。幸いアフガンやアフリカに派遣してもらえたが、愛妻はいないし、彼女もいない。遠距離恋愛を女性に維持してもらえるくらいの魅力が私にはないのだ。遠距離恋愛中の同僚たちがどのように女性を惹きつけているのか、よくわからない。わかれば同じことをするのだが。

自分が寂しい男だということを再確認したところで、バーベキューはお開きとなり、私はジャックやヴァーノンに礼を言い、兵舎に戻った。ジャックにもらった「特殊部隊愛妻クッキー」をデジカメで撮影し、やがて2段ベッド上段に横になった。米軍特殊部隊と交流できたことによる興奮にドキドキしながら、やがて眠りについた。

アフガニスタンは本当におもしろい。

←米軍特殊部隊の乗るブラックホーク

←特殊部隊愛妻クッキー

つづく


  


Posted by 野田力  at 07:00Comments(8)アフガニスタン